第310話 イグニスへの対抗策
「……あの、
「え? なになに? パーティー会場から追い出す……とか?」
マリーの発言にメルアが首を傾げる。
「そんな野蛮な真似はしませんわぁ! あくまで自主的に、でも一気に外に出るきっかけがほしいんですの」
マリーの発言で光明が見えてきたような気がする。あと一息、あと一工夫なにか出来れば、劇的な変化を起こせるはずだ。
「自主的に……一気に……」
「あっ! なにかイベントをやればいいんじゃない!?
僕の呟きで閃いたのか、アルフェが思いついたことを口にしてくれる。その発言に触発されたのか、マリーが急に高く飛び上がってエステアに駆け寄った。
「それですわぁあああああっ!!! やりますわよ、エステア!!」
「ちょ、ちょっとどうしたの、マリー?」
エステアはまだ理解出来ていない様子で半歩後ろに下がる。マリーはその両手を絡め取り、ぶんぶんと上下に振る。
「ステージですわよ、ステージ! イベント用のステージを用意するんですわぁ!」
「それはいいけど、ステージでなにをするの?」
「そーだよ、申請書にはステージ使うようなイベントはないよ? まさか出張占い小屋とかやってもらうつもり?」
戸惑うエステアを助けようと、メルアが間に入る。
「それよりもっと人を集めるものがありますわぁ! アルフェ!!」
マリーはそう言うと、こちらに向き直り、勢い良くアルフェを指差した。
「え? ワタシ……?」
自分が名指しされるとは思っていなかったアルフェが、驚いたように目を泳がせている。
「
「それいいな!」
何を言われたのか僕が理解する前に、ヴァナベルの声が高らかに響いた。
「聴きた~い!」
「にゃはははっ! 生徒会総選挙だけじゃ勿体ないもんな。やるか!」
ヌメリンとファラが賛成を示す中で、ホムがエステアと顔を合わせている。
「エステアはどう思いますか?」
「いいアイディアだと思うわ。でも……」
エステアが言い淀んで俯く。結果的に高評価であったにせよ、生徒会がバンドを組み、ライブを行うというのを遊びと捉えられることを恐らく気にしているのだろう。イグニスが来賓の全てを賄えるような大規模な社交パーティーを計画しているとなれば、尚更だ。
「生徒会の仕事なら、その間は私たちで回せばいい。なあ、ライル?」
「そうだな。そのための補佐ですよね、エステア会長」
沈黙を破ったのはリゼルとグーテンブルク坊やだった。彼らが揃って賛意を示したことで、エステアも決意が固まった様子だ。
「リゼル、ライル、ありがとう」
「オレたちもいるぜ!」
やれやれ、もうこれは完全にライブをやる流れになってしまったな。反対するつもりもないし、何よりアルフェが嬉しそうにしている姿を見ると、僕ももう一度あの高揚を味わいたくなる。
「……リーフ」
アルフェが僕の意思を確かめたそうに声をかけてくる。僕の気持ちは、もう決まっている。
「やるよ。僕たちのライブで、建国祭に来てくれた人たちを振り向かせよう」
「リーフ!」
僕の言葉を待っていたかのように、アルフェが抱きついてくる。僕との体格差を考えて、あくまで柔らかく、でもぎゅっと抱き締められた。
「……では、決まりですわね。早速ステージの手配を致しますわぁ~!」
「音響設備もいるよね~」
「さすがヌメリンさん、話が早いですわ。じゃあ、みなさま、申請書は頼みましたわよ~」
この短時間で何かの計算を巡らせたのか、マリーとヌメリンが意気投合して生徒会室を飛び出して行く。
「……すごく張り切ってたね」
「なんだかんだ言って、意気投合してんだよな」
嬉しそうに話すヴァナベルは、ヌメリンの活躍を素直に喜んでいる様子だ。
「そんじゃ、うちらでこれの分類を進めちゃおっか。今日中に精査して許可出しまでやっちゃおう!」
「そうだね。ライブの準備もあるし、出来ることはどんどんやっていこう」
イベント系をざっとまとめて、ファラが分けてくれた食品関係の申請書を精査していく。全員に食品衛生関連の検査が入ることを告知し、それと平行して配置を決めて行く必要がある。
配置については、リゼルとグーテンブルク坊やの意見を受け、提供している食品の種類をメインに分けることにして、貴族寮と平民寮の生徒で大きく分けることはしないことにした。
「……で、なにをやるんだ? 新曲?」
概ね申請書の分類が進んだところで、余裕が出てきたのかヴァナベルに訊ねられた。
「僕が作るわけじゃないと思うけれど、アルフェが歌いたい曲がいいんじゃないかな」
僕の応えにアルフェが大きく頷き、頬を薔薇色に染めて口を開いた。
「……ワタシ、ラブソングがいい! 大切な人、大好きな人に向けるみんなの心に響く歌!」
「いいわね、アルフェらしくて。じゃあ、その方向性で曲を作ってみるわね」
「エステアが作ってくれるのですか?」
アルフェの意見を聞いたエステアが微笑む隣で、ホムが心配そうに訊ねる。
「もちろん。
「それは確かにそうですね」
エステアのその考えに、ホムも異論はないようだ。単に彼女の負担を心配しているだけなのだろうな。
「それじゃあ、歌詞はアルフェに考えてもらおうか」
「いいの!?」
僕の提案にアルフェが目を丸くしている。でも、かなり好意的な反応なので僕は安心してエステアに確認した。
「いいよね?」
「ええ、アルフェの言葉で紡ぐラブソングがいいもの。そうしてくれる?」
エステアにまっすぐな視線を向けられ、アルフェがはにかむような笑みを浮かべて頷く。その視線は自然に僕へと向けられた。
「ひゅ~! なんか熱くなってきたぁ~!」
「楽しみですね、マスター」
ヴァナベルがからかっていることに気づかず、ホムが嬉しそうに僕に同意を求めてくる。
「そうだね。今夜からまた練習しようか、ホム」
これからさらに忙しくなるけれど、その忙しさがあたたかくて心地よい。こんな気持ちで建国祭まで駆け抜けていきたいと、心から願わずにはいられなかった。
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