第262話 学力テスト首位
新学期二日目は、学力テストの結果発表の日とあり、早くから多くの生徒が講堂に詰めかけていた。クラス別で総合点を競い、その順位が三学期の授業に大きく影響することもあり、ヴァナベルはいつもより一時間近く早く食堂を飛び出し、講堂に一番乗りしたらしい。今か今かと忙しなく兎耳を動かすヴァナベルは、教員たちが厳かに順位が書かれたパネルを運んでくるや否や、その内容を真っ先に読み取ろうと飛びついた。
「……っ! よっしゃあぁあああっ!!」
講堂にヴァナベルの歓喜の声とどよめきが広がる。ヴァナベルの喜び様から、僕たちF組の順位は明らかだった。
「リーフ! 見ろ! お前が一位だぞ! 加点問題にとんでもない加点がついてんじゃねぇか!」
ヴァナベルが興奮で息を切らしながら僕の元へと駆け寄ってくる。
「そんなにかい?」
やれやれ、加減したつもりだったがそれでもまだ詳しすぎたらしい。表向きには意外そうに取り繕って肩を竦めると、ヴァナベルが僕の手を掴んで人混みを掻き分けて進み始めた。
「もう、ダントツ! やっぱりお前は最高だぜ!」
ヴァナベルがそう言いながら示した成績表には、300満点のところ、450点を獲得したという僕の成績が記されていた。150点の加点はヴァナベルの言うように群を抜いて高く、次に高得点であるアルフェよりも50点以上高い。
「リーフ、すごいね! ワタシもお勉強頑張ったけど、全然届いてない」
「それでも2位はすごいよ、アルフェ。ホムもがんばったね」
「ありがとうございます、マスター」
ホムはアルフェよりも少し低い5位だったが、これは恐らく記憶共有が即ち当人の知識や経験と等価ではないことによるものだろう。僕にとって前世も含めた過去の記憶は、誰かに説明する――今回のようにテストで回答できるようになる――ためには、それに相応しい学びが必要なのだ。
人魔大戦を経験している僕の記憶を共有しているホムは、魔族を僕が見たことがあるもの、程度にしかまだ認識出来ていないのかもしれないな。それを補う予習はもう少し頑張った方がよかったのかもしれない。まあ、この先の授業できちんと習うので、ホムの吸収力なら全く問題はないのだけれど。
「はー……。滅茶苦茶勉強したのに、オレなんて20番台だぜ……」
「でも~、クラスの人数ってどこも30人くらいだから~、F組で上の順位をかなりとれたから一位になったんだよ~。だから20位もすごいよ、ベル~」
落ち込むヴァナベルをヌメリンが励ます。
「ん? 言われてみればそうだな!」
ヴァナベルはそれを聞いて急に目を輝かせた。
「にゃはっ! その顔は、ヌメリンに言われるまで気づいてなかったな?」
ファラが尻尾を左右に揺らしながら愉快そうに笑っている。ファラの成績は8位とまずまずの結果だ。
「「リリルルは15位だ。F同盟の勝利は明らかだな」」
いつの間にか近くに来ていたリリルルが声を揃える。言われて順位表を見ると、同点15位にリリルルの名前があった。今回も得点が全く同じというのも興味深い。多分間違えたところも同じなんだろうな。
「しっかし、これでF組がまたリードを広げたよな!
F組の総合得点が一位になったのは喜ばしいことだが、果たしてそんなにすぐに変わるだろうか。物事は悪い方に変わる時は早いが、良い方に変わるのは時間がかかるものだが――。そこまで考えて、エステアのことが頭に浮かんだ。
「……二年生はどうかな?」
僕が言わんとしていることがわかったのか、それともホムも僕と同じようにエステアのことが気になっていたのか、少し離れた場所にいるエステアを視線で示した。
「エステアが一位、クラスも一位のようですよ」
「そうみたいだね」
周囲の反応を見るに、トップの座を射止めたのは間違いない。耳の良いホムは周囲のこのざわめきの中でも、必要な情報をきちんと聞き分けてくれる。だが、それでもエステアの少し晴れない笑顔が気になった。
これだけ努力していても、生徒会選挙で苦戦を強いられることを覚悟しているのだろうな。手伝うと言った以上は、早くなにか打開策を考えなければ。
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