第222話 祝勝会
「二回戦突破おめでとう~!」
初日の全試合が終わり、いつもよりかなり遅くに寮に戻ると、この時間には珍しく、ウルおばさんが大きな身体を揺らして僕たちを迎えてくれた。
「あんたたちの戦い、おばさんもしっかり見させてもらったよ! 本当に立派になって……」
「あ……ありがとうございます……」
応援しているとは言われていたが、まさか試合を見に来てくれていたとは思わずにすっかり恐縮してしまったが、ウルおばさんは構わずに太く立派な腕で僕たちを力強く抱き締めてくれた。
「さあさあ! 一日戦って疲れただろう。食堂でみんなが待ってるよ」
ウルおばさんが目を潤ませながら、僕たちを食堂へと送り出してくれる。空腹も手伝って少し早足で食堂へ向かうと、リリルルが扉のところで待ち構えていた。
「「良い試合だった、アルフェの人。リリルルもエルフ同盟の同志として鼻が高い」」
いつものようにぴったりと声を揃えてアルフェの健闘を讃えたリリルルが、食堂の扉を開け放つ。
「「さあ、リインフォースよ。祝福の扉は今開かれた! 宴の場に向かうがいい」」
リリルルが高らかに宣言すると、扉の向こうから割れんばかりの拍手が響き、僕たちを迎えてくれた。
「おめでとうー!」
「二回戦突破! 凄いよ!」
「ホムちゃんもアルフェちゃんも格好良かった!」
「リーフの作った機体は最高だよ!!」
扉の向こうに控えていた平民寮の生徒と食堂のおばさんたちが、笑顔で僕たちを歓迎してくれる。
食堂のテーブルにはかなりのご馳走がずらりと並び、まるでちょっとしたパーティのようだ。
「こ、これは……?」
「決まってんだろ! オレたちの二回戦突破を祝うパーティだ!」
あまりの歓待振りに戸惑う僕に、ヴァナベルが嬉しそうな声で応じる。
「食堂のおばちゃんたちが、サプライズでお祝いを準備してくれたんだよぉ~」
「にゃはっ! 負けたら負けたで頑張ったで賞の会の予定だったらしいけど、あたしたち全員勝っちまったからな」
ヌメリンとファラも僕たちの健闘を讃えるように手を叩きながら近づいてくる。
「なるほど、そういうわけだったんだね」
僕も彼女たちの健闘を讃えるように拍手を贈ると、隣にいたアルフェがリリルルに手を引かれて中央に躍り出た。
「「リリルルは健闘と勝利を祝して、踊ろう」」
「にゃははっ! あたしも混ぜてくれよ!」
「ヌメも~」
嬉しさを全身で表すように踊り始めたリリルルとアルフェに、ファラとヌメリンが加わると、他の生徒たちも次々とその輪に加わっていく。
「さあさあ! ダンスもいいけど、冷めないうちに食べるんだよ~!」
「あっ! ベル~! 乾杯の合図やらないとぉ~」
「わぁってんよ! じゃあ、なんだかグダグダだが、乾杯だ!」
食堂のおばさんたちとウルおばさんが生徒たちに声をかけると、乾杯の合図も慌ただしく僕たちの勝利を祝したパーティが始まった。
* * *
「……美味しいかい、ホム」
「はい。とても力がつきそうです」
大ぶりな骨付き肉を上品に食べ進めながら、ホムが嬉しそうに頷く。
「どれも美味しいねぇ。食べ過ぎちゃいそう」
リリルルの踊りから開放されたアルフェも、フルーツを使ったサンドイッチに舌鼓を打っている。
「まさか二回戦でこんなにお祝いしてもらえるなんて、嬉しいね」
僕と目を合わせて嬉しそうにしているアルフェに頷きながら、僕はヴァナベルたちの方を見遣った。
「まあ、三回戦以降でやるとちょっと微妙な空気になるだろうからね」
「……あ、そっか……ヴァナベルちゃんたちのチームと――」
僕の表情で察したのか、アルフェはそこまで言って口を噤んだ。
リインフォースとベルと愉快な仲間たちは、同じブロックなのだ。勝ち進めばお互いに戦うことになるのは避けられない。
「ん? なんかオレのこと話して――ってか、なんて顔してんだよ!」
耳ざとく自分の名前を聞きつけたヴァナベルが、大皿を抱えてこっちに向かってくる。
「いや、なんで二回戦の祝賀会なのかって気づいただけだよ」
ヴァナベルたちが気づいているかどうかわからないので、敢えて少し言葉を濁した。
「ん? なんでって初日が終わったからだろ?」
「あっ! 違うよ、ベル~!」
ヴァナベルの呟きにヌメリンが慌てた様子で割り込む。
「にゃは~、そっか、そりゃそうだよな。一回戦で当たらなかったから安心していたけど、まあ、そうなるよなぁ~」
「あーーーーーっ! そういうことかぁ!!」
ファラがヴァナベルとヌメリンの肩を組んで言うと、漸くヴァナベルも気づいた様子で大声を上げた。
「せっかくお互い準決勝まで来たんだ。本気で来いよ、お前ら。手加減したら絶交だからな!」
「元よりそのつもりです」
ヴァナベルの念押しにホムが顔色一つ変えずに応じる。
「まっ、ホムならそう言うと思ったぜ」
ヴァナベルがホッとしたように顔を綻ばせると、ヌメリンも同意を示すように何度も頷いた。
「F組の本気をみんなに見せるいい機会だよ~」
「にゃははっ! あたしの魔眼は厄介だぞ~」
「でも、負けないよ。ファラちゃん、ヌメリンちゃん」
ヌメリンとファラに対し、アルフェが笑顔で応えて二人と拳を合わせる。昔のままのアルフェだったなら、戦うことを嫌がっただろう。でも、今のアルフェは違う。本気で戦おうとする相手にあくまで礼節を以て応じる覚悟が出来ているのだ。
「おっ、そうそう。準決勝でそっちが勝ったらオレの全財産を賭けてやるぜ!」
「ヌメも~!」
アルフェの成長に感心していると、ヴァナベルが急に賭け事のことを持ち出してきた。確かに
「……自分のチームには賭けないのかい?」
「賭けないんじゃなくて、賭けられねぇんだよ!」
ああ、負けることも想定した発言をしているような気がしたが、そうではなかったらしい。
「あっ、まさかオレが負ける前提で話してるって思ってねぇよな?」
「いや、ヴァナベルにしては弱気だなと思っただけで」
突っ込んだ聞き方をされたせいで、つい本音をそのまま口にしてしまった。
「ぜぇええええってぇ違うからな! そもそもオレたちは負ける気はねぇ! けどよぉ、そんなオレたちが仮に、もしも、まーんがいちでも! 負けることがあったっていうんなら、お前らが優勝するに決まってんだろ?」
「だから、もし賭けるならホムちゃんのいるチームしかないよねぇ」
ヴァナベルが必死で言う横で、ヌメリンがおっとりと身体を揺らしながら楽しげに笑っている。
「にゃははっ! 食堂のおばちゃんもあたしたちとリインフォースに賭けて、ボロ勝ちしたって話だもんな」
ああ、だからこんなにも豪華なご馳走が並んでいるのか。でも、食材を事前に準備しなければならないことを考えると、この寮の人たちは僕たちのチームが勝つことを信じてくれていたんだろうな。
信じ合い、共に戦うことが出来る仲間がいて、それを祝ってくれる人たちがいる。三回戦は、仲間同士の戦いにはなるけれど、皆に誇れる試合になるはずだ。
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