第220話 生徒会チームの初戦

 アルタードの右脚の魔力収縮筋の張り替えとアーケシウスの右腕肘関節の交換だけで、かなりの時間を要したが、アイザックとロメオが宣言したように二回戦の最終試合にはどうにか間に合った。


「良い感じです、マスター。アイザック様、ロメオ様」


 修理を終えたアルタードに試乗したホムが、僕たちに感謝の笑みを向けながら降りてくる。ホムの微妙な表情の変化が伝わったのか、あるいは、自らの整備に自信をつけたのかアイザックとロメオも笑顔で頷いた。


「あとはアルフェのレムレスだね」

「さっきアイザックくんに見てもらって、大丈夫そうだよ」


 どうやらロメオにクレーンを操作してもらい、アーケシウスの装甲を戻しているうちにアイザックが進んで点検をしてくれたようだ。


「ちょうど手が空いていたでござったから……勝手にすまぬよ~」

「いや、助かったよ」


 僕が一から十まで指示をしなくても、自分の判断で動いてくれるのはかなり助かる。


「やっぱりホムちゃんには、エステアさんの試合を見てもらいたいからね」

「で、ござるよ~!」


 アイザックの意図に気づいていたアルフェが言うと、アイザックは嬉しそうにぶんぶんと尻尾を横に振った。


「アイザックとロメオも、見逃したくない試合だろうからね」

「間に合って良かったよ。もちろん、間に合わせるために手を抜いたりなんてしてないけどね」


 同意を示した僕にロメオが安心した様子で付け加える。


「二人の機兵への愛情と熱意を考えれば、そんなこと疑う余地もないよ」

「さすがリーフ殿でござるよ~」


 僕が笑うとアイザックとロメオもつられて笑う。


 結局、明日の三回戦――つまり準決勝に向けて機体整備を終えて大闘技場コロッセオの出場者用の観客席へ着いたのは、両チームが入場した後のことだった。


「……一応試合開始前ってことでいいのかな?」

「そのようだね」


 エステアコールに包まれている会場は、既にかなりの熱気に包まれている。


「エステア! エステア!」

「エステア! エステア!」

「イグニス! イグニス!」


 エステアに負けじとしてか、イグニス陣営の応援も聞こえてくるが、一般客の声援は圧倒的にエステアが勝っている。


 一方、対戦相手の3年B組チーム、『アイスマン』は揃いの応援旗が一部で振られているものの、応援の声は大声援の前に掻き消されてしまっている。


「戦いにくそうだね……」

「昨年の優勝チームの二人が相手だし、想定の範囲だと思うよ」


 眉を下げて呟くアルフェに応えながら、相手チームを改めて観察してみる。


 青色の塗装で統一されてはいるが、チームの編成は、僕たちが二回戦で戦ったノーブルアーツと同じ重機兵のデューク三機だ。


「機体性能の段階で苦戦を強いられることが目に見えています……」


 ホムの言う通り、カナルフォード生徒会チームの編成は、エステアのセレーム・サリフと、メルアのフラタニティ・フレームをベースに錬金術を用いて改造された魔装兵アルケーミア、イグニスの帝国最新鋭機兵デュオスの三機――故に、機兵評価査定の時点でかなりの差がついている。


「操手の実力は最早言及するまでもないし、相手チームが勝利をもぎ取るのは至難の業だろうね」


 メルアの証言によると、イグニスは何らかの手段で機兵適性値を上乗せしているようだが、それが機兵性能によるものなのか、単なる架空加点によるものなのかによって戦い方には大きな差が出るだろう。


「順当に行けばイグニスを狙うでしょう」


 ホムの分析に僕も頷く。1年次のイグニスの機兵適性値が低いことは、在学生の間では公然の秘密になっているようなので、相手もそこを突いてくるはずだ。


「それではぁあああああっ! 二回戦ぇえええええんのぉおおおおおおッ! 最終試合をぉおおおおおおおお、始めまぁああああああああすッッ!!!」


 大歓声に負けじと司会のジョニーが声を張り上げる。その途端、大闘技場コロッセオが揺れるほどの歓声が更に重なった。



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