第213話 理事長の祝辞
「皆さぁああああああん! 大変お待たせ致しましたぁあああああああっ!」
立ち見の客が出るほどの超満員の
「あっ、ジョニーさんだよね、今の」
「独特の特徴をお持ちですが、観客の注意を一瞬で引き寄せる技術は見事です」
アルフェに頷いたホムがそう表したように、観客の視線は
あまりの混雑に入場が遅れ、三十分後ろ倒しとなっていた開会式がいよいよ始まるのだ。
壇上のジョニーは観客の視線を独り占めするように大きく手を広げると、左右と中央に丁寧に頭を下げ、マイクを持ち直した。
「これよりぃいいいいいっ!
ジョニーの宣言に、観客席から歓声と拍手が上がる。バックヤードとの境界に設けられた選手専用の観客席に着席していた選手たちも、興奮した様子で立ち上がった。座ったままだと全く見えないので、僕たちも皆に合わせて立ち上がる。
「それではぁああああっ! まず始めに、カルフォード学園理事長ハインライヒ・フェリックス伯爵のご挨拶をぉおおおおおおっ、賜りますっ!!!!」
ジョニーがそう言って壇上から降りると、入れ替わりに中央がせり上がり、白髪に白い髭を蓄えた上品そうな老紳士が姿を現した。
『皆様、おはようございます。本日、この良き日に、我がカナルフォード学園高等部の精鋭15チームによる
昨年度の優勝チームのエース、エステア・シドラが大学部のエキシビションマッチにおいて鮮烈な勝利を飾ったことは、皆様の記憶にも新しいことでしょう。本年の
わたくしの注目致すところは、自ら機兵を改造し、エステア・シドラのセレーム・サリフに匹敵する全く新しい機構を備えた機兵を生み出したという新1年生のチームであります。昨年、エステアが無名の1年生であったように、今年もまた無名の強者が眠っていることでしょう。彼ら・彼女らがその眠りを覚ますその瞬間を、この
結びに本大会の開催にご尽力いただきました関係者の皆様方に、深く敬意を表しますとともに、本大会の成功と参加諸君の活躍を祈念いたしまして挨拶とさせていただきます』
淀みなく紡がれる言葉は、格式張った難しい言葉というよりは、この大会を心から楽しみにしている教育者のものだという印象を受けた。なにより、普段学園にいないので全容を把握していると思っていなかったのに、僕たちの機兵のことに触れられたことにはかなり驚いた。
「マスター……」
ホムは感激したのか、言葉を失って目を潤ませてこちらを見つめている。
僕たちはどこからも注目されていないと思っていたけれど、フェリックス理事長のエステアの愛機と『匹敵する』という評価は、同得点を獲得したアルタードのみならず、アルフェのレムレスへにも言及しているということだ。
「実力主義を謳う学園の本質はきちんと機能しているようだね」
だとすれば、この
「さぁあああて! わたくしの紹介には及ばないかぁああああっ! 生徒代表挨拶、エステア・シドラァアアアアアッ!!!」
いつの間にか壇上を去ったフェリックス理事長と入れ替わりに、エステアが壇上に立っている。凛とした佇まいとこんな大観衆を前にしても余裕さえ窺える優美な表情は、さすがの風格だ。
「宣誓――」
エステアが右手を高らかに上げ、口を開くと同時に、会場は水を打ったかのように静まり返った。エステアの涼やかな声を一言も聞き漏らすまいと、会場の誰もが集中しているのだ。
「わたしたちは、この学園で培った日頃の鍛錬の成果を発揮するとともに、今日ここで同じ学び舎の優秀な生徒と戦うことが出来る名誉に感謝し、ここに集い、あるいは遠方でわたしたちを応援し、見守ってくださる皆様に誇れるよう、全力で正々堂々と戦いに挑むことを誓います」
高らかに宣誓された言葉は、エステア自身の誓いでもある。正々堂々と、という部分にしっかりと抑揚をつけ、視線を僅かに動かしたのはイグニスを意識してのことだろう。同じチームに敵がいる――それでも優勝を目指さなければならないエステアには、事情を知らない観客からの連覇を望む期待がかけられている。
けれど、エステアはそんなプレッシャーをものともせずに戦うのだろうな。それが彼女の強さの本質なのかもしれない。
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