第196話 三属性魔法の同時制御
「さっ、今日のティータイムの大遅刻は、エステアにごめん~ってするとして、学食を食べそびれるのはマズいから、帰るよ~」
自分のアトリエということもあり、メルアが片付けもそこそこに僕たちに撤収を促す。
「あ、でも待って、ししょーってアルフェちゃんを迎えに来ただけじゃないよね? うちになんか用だった?」
「ああ、それは道すがら話すよ。今日急いでやるべきことでもないからね」
メルアの気遣いに笑みを返しながら、アトリエをぐるりと見回す。この充実した設備ならば、レポートのための追試実験の材料は難なく揃うはずだ。
「……あのっ、メルア先輩、ワタシさっきの魔導書を借りたいです!」
荷物を纏めて帰り支度をしていたアルフェが、ハッとしたように声を上げた。
「
「でも、やってみたい」
メルアのネガティブな発言にもアルフェは揺るがない。
「まあ、うちは使ってないヤツだし、いいよ。やるだけやってみて、自分で決めるってのも成長だもんね」
メルアはそう言うと、古びた魔導書をアルフェに手渡した。
「ありがとう!」
アルフェはそれを丁寧に両手で受け取ると、胸の前で大事そうに抱えた。
火・水・雷の三つの属性を制御しながら魔法を放つという並列思考力を要するので、かなりの素質と技量を兼ね備えている必要がある。まあ、イメージ構築という点では、アルフェはかなり優秀なので
しかし、術式の構築に時間がかかるうえ、効果が三段階に分かれているので、どれか一つでも属性防御で凌がれてしまえば攻撃として不完全なものになってしまう。メルアの言う通り実戦には不向きな、まさに理論上可能、というだけの魔法だ。
だけどきっと、アルフェはこの面倒な、普通の人間ではまず実戦に採り入れることさえしない魔法に勝機を見出しているのかもしれないな。それだけのことをしなければ、メルアには勝てないとわかっているのだ。
「
「うん。そのための機兵も、もうすぐ完成するよ」
いつものように並んだアルフェを見上げると、見つめ返してくる浄眼が眩しかった。
* * *
それぞれの寮に向かう途中で、メルアにプロフェッサーから頼まれているレポートのことを話し、材料を用意してもらえることになった。
「なにからなにまで済まないね」
「いやいやいや! だって、ししょーがアレンジしたバージョンのブラッドグレイルを手に入れるためだったら、こんなのぜーんぜん、労力でもなんでもないし!」
ああ、そういえば行き先を考えていなかったが、メルアに渡してしまうのは後々のことを心配しなくていいな。ブラッドグレイルが桁違いの性能を発揮している要因に、僕の血が重要な役割を果たしているのはメルアの浄眼には明らかなわけだし、かといって、それを言いふらしたりしないという安心感もある。
メルアとしては、僕の秘密をおおっぴらにするよりも、僕の知識と技術を学び続ける方がメリットがあるので当然だろう。
「まあ、変にどこかに分析に出したりしないで個人使用してくれる分には、構わないよ」
「もちろんもちろん! あと、
「助かるよ」
一から十まで言わなくても、色々と察してくれるのは助かるな。これでレポートの目処も立ったことだし、今夜は簡易術式のアレンジバージョンを考えておこう。これさえ作ってしまえば、実物で検証するまでもなく、レポートの骨格はほとんど出来てしまうわけだから、少し気も楽になるはずだ。
貴族寮に戻るメルアを見送った後、アルフェがさりげなく僕の手を握ってきた。
「少し寄り道してもいい?」
「いいよ。せっかくだから、なにか夜食でも作ろうか」
「ワタシ、ふわふわのパンケーキが食べたい♪」
僕も機兵のバックパックのことを考えるばかりじゃなく、少し気分転換をしたかったのでアルフェのリクエストに笑顔で頷いた。きっとホムたちも喜んでくれるだろう。
「それじゃあ、この前のお店に寄って帰ろう」
「うん」
アルフェが僕の腕に身体を寄せ、嬉しそうに声を弾ませたその時。
「ししょ~!! アルフェちゃん、大変なんだけど~!」
随分と慌てた様子でメルアがこちらに向かって走ってきた。
「どうしたんだい、メルア?」
「エステアが、いないんですけど~!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます