第133話 爪弾きの二人
「オレは95点と51点、ヌメは90点と78点だ。魔法がちっと苦手だけど、そこは体力やなんかでカバーしてやるぜ!」
教壇に立ったヴァナベルが、ヌメリンに各自の成績を板書させながら早くも模擬演習の作戦会議を始めている。
「しっかし、リリルルはともかく、ギードが高得点なのには参ったな。全然目立たねぇくせに、魔法戦闘力も高得点じゃねぇか。おめぇ、すげーんだな!」
「…………」
寡黙なギードはヴァナベルに名指しで話しかけられても会釈をするのみだ。だが、他のクラスメイトたちは、数値化された互いの実力についてそれぞれに思うことがあるようで、話しに耽っている。
良くも悪くも、総合成績の月間発表がなされたことで、クラスメイトたちの実力が明らかになり、F組にも成績による序列が出来始めている。
ちなみにタヌタヌ先生の軍事訓練は、白兵戦闘力――すなわち刀剣などの近接戦闘用の武器を用いた戦闘能力に換算されている。
加点式で100点満点というわけではないのは、白兵戦闘力一位のホムが120点を獲得していることからも明らかだ。100点というのは、先生と互角に戦えることを示している数値なのだが、それを上回るということは、一対一ではホムがタヌタヌ先生を上回っているということを示している。
「よくやったね、ホム」
「マスターのおかげです。そのようにつくってくださいましたから」
まあ、ホムンクルスだから確かにそうなのだけれど、きちんとその能力を活かせているのはホムの努力に他ならない。
「ホムが持って生まれた才能に甘んじていないという評価だよ。僕も誇らしい」
「光栄にございます」
僕が素直に喜んで見せると、ホムも頬を緩めて笑みを見せた。
「ホムちゃん、本当に凄いよ。ワタシとリーフは38点と33点だから、ワタシたち二人でもタヌタヌ先生には勝てないんだもん」
「実戦で言えば、アルフェは魔法も使えるわけだから、かなりの評価だと思うけどな」
アルフェの魔法戦闘力は、リリルルの94点に次ぐ91点だ。
「でも、リリルルちゃんたちは白兵戦闘力でも88点でしょ? 総合で行くと一位だし、二人のコンビネーションだったら無敵かも」
確かにそれは一理あるな。総合成績でも全く同じ得点を獲得しているリリルルは、F組のみならず、全クラスのトップだ。
その次はヌメリンとギード、ファラと続いて、ヴァナベルもそれなりの位置につけている。
戦略さえ間違わなければ、模擬演習でもかなりの健闘が期待出来そうだ。
とはいえ、ヴァナベルがクラス委員長である以上は、僕は爪弾きにされそうだし、僕の味方であるアルフェやホムに助けてくれとも言わないだろうな。リリルルは基本的に二人の世界にいるか、同盟を結んでいるぐらいなのでアルフェの味方につくだろう。ルームメイトのファラも同じだ。
やれやれ。クラス全体のことを考えれば、僕を差し置いて協力しあうように促すべきなんだろうな。僕としては前世でずっと一人だったので、この程度の爪弾きなんて全く気にしないわけなんだけれど、現世のリーフとしての立場を考えると、アルフェは嫌がりそうだ。
「……ねえ、アルフェ、ホム」
「なあに、リーフ?」
「どうされましたか、マスター」
ホームルームが始まる前に、アルフェとホムに伝えておこう。ヴァナベルが面と向かって僕を爪弾きにした後に言ったのでは、きっと僕に同情してしまうだろうから。
「次のクラス対抗戦なんだけど、クラスの民意というものを優先したい。もし僕がお荷物扱いされたとしても、アルフェとホムにはファラやリリルルと一緒に、クラスのために戦ってほしいんだ」
「…………」
アルフェとホムは僕の目を真っ直ぐに見つめて、一語一句を記憶するかのように真剣に耳を傾けてくれたが、二人ともすぐには返事をしなかった。
「わかってくれるかい?」
ホムは理解しがたいという表情で首を横に振る。アルフェは少し考えてから、静かに口を開いた。
「……それは、リーフのためになるの?」
ああ、やっぱりそれを気にするだろうな。
「クラス対抗ということは、恐らく全員の加点になる。現時点の成績では、僕はその恩恵を受けるだけの存在ということになるだろう。僕のために、二人の足を引っ張りたくはない」
ずるい言い方だとわかっているが、敢えてこの言葉を選んだ。アルフェとホムは顔を見合わせると、渋々と言った様子で頷いてはくれた。まあ、ホムは実際ヴァナベルに敵意を感じているから、その命令に従うとは思えないけれども。
それともアルフェがホムを上手く導いてくれるだろうか。
「……よし、ホームルームを始めるぞ」
とめどなく考えていると、タヌタヌ先生がぽんぽんと手を叩きながら、ヴァナベルと入れ替わり、教壇に立った。
「知ってのとおり、月間総合成績の結果から、クラス対抗模擬演習の出場クラスは、一位のA組と二位のF組に決定した」
「せんせー! それを言うなら一位のF組の間違いだろ!」
A組の疑惑の加点に納得がいっていないヴァナベルが、大声を上げる。クラスメイトの中にもヴァナベルと同じ意見の者は多く、それぞれに文句の声が上がった。
「お前たちの目からどう見えようが、規則は規則だ」
タヌタヌ先生はあくまで落ち着いた口調で場をいなし、ヴァナベルに視線を戻した。
「ハン! じゃあ、オレたちの方が優秀ってとこを見せつけてやんねぇとな! A組のヤツらを、完膚なきまでにぶちのめせば、誰の目にもF組が優秀だってわかんだろ!」
「口で言うほど簡単なことじゃないぞ」
「わぁってんよ! じゃあ、早速作戦会議といくか!」
ホームルームの議題を先取りし、ヴァナベルが再び教壇へ上る。
「はぁ、若いヤツらは血気盛んだな」
タヌタヌ先生は呆れたようにも喜んでいるようにも見える表情で教壇から降りると、脇にある教員用の席に腰を下ろした。
「オレがクラス委員長として、お前らを全員勝たせてやる! だからオレについてこい!」
「あ~い!」
ヴァナベルの宣言にヌメリンが笑顔で挙手する。その他の生徒たちもその場の流れでヴァナベルに従い、作戦会議が進められた。
勝つためには成績上位のリリルルやアルフェ、ファラの協力が不可欠なのはヴァナベルもわかっているらしく、四人には頭を下げて丁寧に協力を申し入れた。一方で、僕とホムはというと、成績下位者とその従者ということで、僕のホムへの要請も虚しく二人揃って爪弾きにされる結果になった。
まあ、ホムについては僕を守るように動くだろうから、必然的に戦うことは目に見えているんだろうな。僕がほぼ最弱ということを考えると、A組から真っ先に狙われる可能性もあるわけだし。
やれやれ、こちらで頭を悩ませるよりも、今は流れに任せておいた方が楽なようだ。幸いその権利を与えられたわけだし、そうさせてもらうことにしよう。
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