意外な所で差は出る
うちの両親は自分と兄のことを分け隔てなく育ててくれました。
もしも片方だけが極端に愛情を注がれていたら、おそらく兄弟の間で溝ができ、仲が悪くなっていたことでしょう。分け隔てなく接するって、大事ですよね。
友達も、どちらか片方だけを特別扱いすることなく、同じように接してくれています。
しかし、しかしですよ。平等に扱っているようでも、実は意外と差が出ていることって、あるのですよ。
今回はそんな、差にまつわるお話です。
自分が子供の頃、兄と二人で家で遊んでいた時、母がお使いに行ってきてと頼んできました。
お使いと言っても大荷物を運ぶわけではないので、どちらか一人が行けば事足ります。
そして母は、兄にお使いを頼みました。特に深い意味はなく、適当に兄を選んだのです。
そして別の日、今度は料理の手伝いをしてくれと頼まれました。
これまた、一人いれば十分ということで、母は兄に手伝いをお願いしました。
こんな風にどちらか一人だけ手を借りたい時、母は決まって兄を選んでいたのです。
そして兄の方ばかりを選ぶのは、母だけではありませんでした。
自分と兄には共通の友達は何人もいたのですが、そんな友達から遊びに誘う電話が掛かってくるのは、いつも決まって兄のケータイです。
勘違いでないのは、履歴を見れば明らか。友達からの着信履歴があるのは、いつも決まって兄の方。自分のケータイに掛かってきたことは、一度もありませんでした。
しかし母や友達が、兄ばかりを贔屓していたかというと、そう言うわけではないのです。
ではなぜこんなにも差が出たのか。
答えは簡単。兄弟を思い浮かべた時、大抵の人は兄の名前の方が先に浮かぶからです。
別にこれは、おかしな事ではありません。
同じように接している兄弟なら、どうしても兄→弟の順で名前が出がちなのですよ。
で、後は最初に浮かんだ兄に頼み事をしたり、電話を掛けたりするわけです。
最初に名前が浮かぶ。これって結構大事なのですよ。
例えば引っ越し業者の『アート引っ越しセンター』だって、電話帳を捲った時に一番上に名前がくるよう、この社名にしたって言われているのですから。
そんなわけで、みんな無意識に兄の方を選んでいるのですが、それに気づいていないのです。
気づいているのは、自分と兄だけでした。
兄の方も自覚はあったみたいで、親も友達も何かあると自分にばかり声かけるよなーって、小さい頃から言っていました。
別にその事に不満はありません。そういうものなのだと受け入れていましたから。
ただ二十歳くらいの時、こんな事がありました。
その日、自分と兄と母の三人でテレビを見ていたのですが、その中で兄弟の育て方について話していたのですよ。分け隔てなく、平等に育てていくことが大事たとか、そんなことを言っていましたね。
すると、テレビを見ていた母が言いました。
「うちはちゃんと、全部平等に育ててきた」
だけど自分と兄は首をかしげました。確かに大抵は平等だったけど、手伝いを頼まれるのはいつも兄でしたから。
その事を指摘すると母は目を丸くして、「そんなはずないでしょ」と言いましたけど、証拠があります。さっきも言った、ケータイの着信履歴です。
過去数ヵ月の履歴を見てみると、母は兄の方にばかり電話を掛けいたのです。
母はそれを見て愕然としていました。
母「そんなに無月兄の方ばかりに電話してたっけ?」
弟「してたよ。現に履歴が残ってるじゃない」
兄「電話だけじゃなくて使いや手伝いを頼むのも、いつも決まって自分の方だったでしょ」
母「いつもって、いつ?」
兄弟「「子供の頃からずっと」」
この時初めて、母は無意識だったんだなと分かりました。
別にこれで、母を恨むなんてことはありません。これが普通だと思っていましたし、兄ばかり手伝いを頼まれていたということは、その分自分は楽できてたわけですし。
ただこの日を境に、母が自分に電話する回数が明らかに増えました。やっぱり何か、思うことがあったのかもしれません。
そういえばこのエッセイを書いている途中、テレビで『双子タレントにピンの仕事はあるのか?』と言う調査を行っていました。
するとどの双子も大抵、兄姉の方がピンの仕事が多かったのですよ。テレビでは「どちらでも良いなら兄姉方という謎の年功序列がある」と言っていましたけど、やっぱり先に名前が浮かんだ方に声をかけているんだろうなって思いました。
平等に扱っているようでも、無意識のうちに差が出ていることって、あるものです。
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