第3話 ボクは悪い子だ

 良い子になる。そう決めたボクは毎日のように、ご飯や寝床を誰かに譲っていった。


 するというの間にか、灰色の猫がご飯を譲ってくれるという噂が流れたみたいで、ボクの元には連日多くの猫が訪れ、ご飯をたかるようになっていった。

 まったく、猫の情報網はすごいよ。


 おかげでボクは、毎日お腹ペコペコ。マイホームだった遊具も譲っちゃって、寒い場所で寝てるから体力も落ちて、足もフラフラだ。

 動くと体力を使うから、今日は公園のベンチの下に潜って休んでいる。

 だけどこれだけ良いことをしたんだから、きっとサンタさんはプレゼントを持ってきてくれるよね。


 そんなことを考えていると、目の前を女の子とそのママが通りすぎて行く。


「ねえママ。今日はクリスマスだよね。サンタさん来る?」

「そうね。良い子にしてたから、きっと来るわよ」


 え、今日!? 今日がクリスマスだったんだ。

 うっかりしてたなあ。良い子になるのに夢中になってて、クリスマスがいつかなんて忘れてたよ。


 ふふ、それじゃあ今日、ボクのとこにもサンタさんがプレゼントを持ってくるのか。楽しみだなあ。

 寒いけど、今はまだ我慢だ。我慢してたら、サンタさんがやって来るんだから。


 でもそれから日が落ちて。


 辺りが暗くなり。


 雪が降り出して。


 だけどそれでも、サンタさんはやってこなかった。


 もう真夜中だ。サンタさんはいったいいつ来るのだろう?

 おかしいなあ。ボク、良い子にしてたはずなのに。


 ああ、まぶたが重い。最近ロクに物を食べていなかったし、休めてもいなかったから、疲れてるんだ。

 すごく……すごく眠い。


 なんだかこのまま眠ってしまったら、もう二度と起きられないような気がする。

 ダメだよそんなの。何があっても強く生きるって、ママと約束したんだから。


 その時ふと、ボクは自分のしていた間違いに気づいた。

 強く生きるって約束したのに、最近のボクは食べないし休んでもいない。ママとの約束を、守っていなかったんだ。


 ははっ……はははっ……。

 なんだ、これじゃあサンタさんが、来ないはずだよ。


 だってボクはママとの約束を破っちゃうような、悪い子だったんだから。

 ああ、こんな事なら、ご飯をあげるんじゃなかった。寝床も、独り占めするんだった。

 もっと自分のことだけを、考えるべきだったんだ。

 ゴメンねママ。約束を守れなかったよ。ボクは、悪い子だ。

 

 もう後悔する気力すら残っていなかったボクは、そのままそっと目を閉じた……。











 ——ママ、こっち来て! 猫ちゃんが倒れてるー!

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