第2話 良い子になるために

 良い子になろうと決めたボクだったけど、考えてみたら元々悪いことなんてしてないんだもの。今まで通りしてたら、サンタさんは来てくれるよね。


 だけど世の中そんなに甘くないと知ったのは、次の日。

 この日も朝からいつもの食堂の裏でご飯を調達していたんだけど、裏口のドアが開いて。中から店のおじさんが、ぬっと顔を出してきた。


「あ、こら! ゴミを漁るんじゃない!」


 いけない、見つかった。ボクはお肉の切れっぱしを口にくわえて、一目散に逃げ出した。

 すると後ろから、おじさんの怒った声が聞こえてくる。


「二度と来るな! 悪さばかりするノラ猫め!」


 悪さばかりするだって?

 ボクは立ち止まると、恐る恐る後ろを振り返る。

 おじさんは今にも沸騰しそうなくらい顔を真っ赤にして、カンカンに怒ってる。それはボクが、ゴミを漁ったから?

 ボク、悪いことしてたの?


 昨日の親子が言っていた、良い子にしてたらサンタさんが来ると言う言葉を思い出す。

 でも悪い子だったら、サンタさんは来てくれないの?


 胸の奥がキュッと苦しくなったけど、これ以上ここに残るわけにもいかずに、お肉をくわえたまま再び走り出す。


 走って走って、やって来た路地裏。もうお腹はペコペコだ。

 だけどボクは迷っていた。このお肉、食べちゃって良いのかなあ? それって、悪いことにならない?

 そんなことを思っていると。


「おいお前、その肉をオレ達によこせ!」


 突然目の前に現れたのは、昨日も会った三匹のノラ猫。

 また来たのか。けど、お肉は渡さない……って、あれ。ちょっと待って。


 見ると真ん中の一匹の右前足に、昨日はなかった傷ができているのに気がついた。

 

「ひょっとしてキミ、怪我してるの?」


 尋ねてみると、彼は威嚇するように言ってくる。


「こんなもの怪我のうちに入らねーよ。走れもするから、逃げたってすぐに追い付くぞ。今日は昨日みたいにはいかないからな」


 そうは言うけど、時々顔を歪めている。

 傷、痛むのかなあ。ご飯をしっかり食べたら、早く治っらないかなあ。

 ええい、だったら。


 ボクはくわえていたお肉を置いて、前足でそっと差し出した。


「なんだ? 本当にくれるのか?」


 うん、あげるよ。元々食べて良いかどうか、迷っていたしね。

 ボクは良い子だから、ご飯をを一人占めせずに分けてあげるんだ。


「へへ、ありがとよ」


 お肉をもらったノラ猫達は気をよくして食べはじめ、ボクは彼らに背を向けてその場から去る。


 これで良かったんだ。けど、お腹空いたなあ。さっきからお腹が、ぐーぐー鳴ってるよ。

 どうやら今日は、腹ペコな一日になりそうだ。



 ◇◆◇◆



 ごはんを食べられなかったボクはお腹を空かせながら、町をさ迷う。


 ああ、お腹すいたなあ。何か食べたいけど、生憎もうご飯の当てなんて無い。

 しかも冷たい北風がビュービュー吹いていて、とっても寒いときた。

 こんな日はどこか暖か居場所で、ゆっくり眠るとしよう。


 と言うわけで、ボクは寝床である公園の遊具まで帰ってきたのだけど、残念。遊具やその周りには、遊んでいる子供の姿がちらほら。

 困ったなあ。これじゃあ遊具の中で眠ることができないや。

 しょうがない。どこか別の場所を探すとしよう。


 ボクは公園のあちこちを見て回って、やがて丁度良い場所を見つけた。

 公園の端っこにある茂みの中に、猫が二匹くらい入れるスペースがあったのだ。

 遊具の中より寒いけど、草や葉っぱが風避けになってくれるから、少しはマシだ。


 茂みの中に入って丸くなって、ウトウト。

 やっぱりまだ少し寒いけど、我慢できないほどじゃない。このまま寝てしまえば、寒いのも気にならなくなる。そう思ったんだけど。


「にゃ~」


 ……うん? 

 誰だ、ボクの眠りを邪魔するやつは?


 パッチリと目を開けて辺りを見ると、少し離れた所からこっちを見つめる、二匹の猫の姿があった。

 二匹とも焦げ茶色に黒い縞模様の入ったキジトラで、一匹はボクと同じくらいの大きさの男の子。そしてもう一匹は一回り小さい、女の子だった。


「なんだ君たちは?」

「ボク達、兄妹で旅をしている猫なんです。町から町へと流れてきたんだけど、妹が寒いって言うから、寒さをしのげる場所を探していたんだけど……」

「ううっ、寒いよお兄ちゃん——くしゅん!」


 妹さんの方はクシャミをしていて、本当に寒そう。

 すると。


「お願いです。妹だけで良いから、茂みの中に入れてもらえませんか?」


 お兄さんの方が、ボクにお願いしてくる。

 どうしよう。確かにもう一人くらいなら、入ることができるけど。


「ええ、あたし一人? それじゃあ、お兄ちゃんはどうするの?」

「ボクは適当に、別の場所を探すよ」

「ヤダヤダ。お兄ちゃんと一緒が良い」


 駄々をこねる妹。まだ小さいから、お兄ちゃんと離れるのが怖いのかな。

 だけどこの茂みの中に、三匹もは入らないし。よーし、それなら。


「だったらボクが出ていくよ。君達は暖をとるといいさ」

「「えっ!?」」


 目を真ん丸にして驚く二人をよそに、ボクはひょいと茂みから抜け出す。だけど……寒い!

 今まで茂みの中にいたから分からなかったけど、いつの間にか外は更に冷え込んでいた。

 でも我慢だ。ここで良い子にしなきゃ、サンタさんからプレゼントをもらえないんだもの。


 寒いのをこらえながら、寝床を兄妹に譲る。


「良いの?」

「構わないよ。ボクはどこか、別の場所を探すから」


 それだけ言って、その場を去る。

 ちょっと格好つけすぎちゃったけど、まあ良いや。


 だけど北風は、容赦なく吹き付ける。

 ううっ、早いとこ寒さをしのげる場所を探さないと、これじゃあ凍えちゃうよ。


 ボクは足早に公園を出て行った。

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