第10話

 さて。

 結論から言うと、余裕で合格することができた。

 大学受験の話である。


 合格発表をネットで確認する前に、これはおそらく合格したな、と僕は思っていた。そう思うくらいに手ごたえがあったのだ。

 一方の薫は、いつもの彼女らしくなく、合格発表までの間、不安げにそわそわしていた。会うたびに「落ちてたらどうしよう……。浪人しようかな……」と、ネガティブなことばかり言っていた。まあ、楽観的過ぎるのもどうかと思うけれど……けれど、悲観的になりすぎだと思う。


「大丈夫だって。きっと、二人とも受かってるよ」

「京ちゃんって意外とポジティブだよね」

「薫こそ、意外とネガティブ」


 僕が微笑みかけると、薫も微笑んでくれた。

 合格発表の日、僕たちは正座をしてパソコンを睨みつけていた。ネットに合格者の番号が表示されるまで、何度もリロードする。


 リロード回数を数えるのをやめてしばらくしてから、ようやく番号が表示された。

 自分たちの番号をしっかりと憶えて、ぶつぶつと呟きながらスクロール。先に見つかったのは僕の番号だった。

 見間違いだったら大変なので、何度も視線を往復させて、表示された番号が一致していることをよく確認する。


「あったあった」

「え、本当?」


 薫は目を瞬かせると、焦りながら自分の番号がないか必死に探した。


「わ、私もあったよ、京ちゃん!」


 叫ぶと、泣きながら抱きついてきた。

 僕は薫の頭を労わるように優しく撫でた。僕も泣きそうになったけれど、泣くのは恥ずかしかったので頑張って堪えた。


 考え得る限り、最良の結果に終わったと思う。

 本当に、受かってよかった。ほっと一安心。


「大学合格おめでとう、京ちゃん」

「ありがとう」


 僕は言った。それから同じように、


「薫も、大学合格おめでとう」

「ありがとう」


 薫がキスしてきた。

 受験という過酷な戦いから解放された喜び。今まで味わったことのない、圧倒的最高級なカタルシス。僕の心は今、かつてないほどに清らかで澄み渡っている。

 今の僕なら、薫に何をされても笑って許すことができるだろう。


「ねえ、京ちゃん」

「なんだい?」


 僕は爽やかに微笑む。


「今、パパもママも出かけてるんだ。知ってた?」

「うん。それが?」

「だから――まあ、その、合格記念ということで」


 先ほどまでのか弱い草食動物の薫はどこかに消えてしまった。今の薫は、いつもみたいに肉食動物だった。

 薫に押し倒された僕だったが、気分はとても晴れやかだった。


 以下中略。


 志望校合格の喜びをひとしきり分かち合った後、僕たちはお互いの家族に二人とも合格したことを伝えた。

 もちろん、家族も大喜びで――その日の夜、僕の一家と薫一家の合同で、『京介&薫大学合格おめでとうパーティー』なるものが開催されたのだった。

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