第5話

 僕たちが付き合っているということは、当然のことながら家族も知っている。僕の家族、そして薫の家族。僕たちは幼馴染なので、どちらの家族も昔からの顔見知りだ。家族ぐるみの付き合いが多々あるわけじゃないけれど、両家族それなりには親しい。

 だから、僕と薫が付き合うことに対して、どちらの家族も反対しなかった。むしろ、応援してくれている。


 今日は、薫が我が家にやってきた。

 どちらの家で遊ぶかは、その時々だ。僕の部屋も薫の部屋も、広さは同じくらい。置いてあるベッドも似たようなサイズで、割と似たようなレイアウトだ。


「お邪魔しまーすっ!」


 薫が元気に挨拶した瞬間、どこからともなく我が姉が現れた。お前はニンジャかよ、と思わず突っ込みたくなる。


「いらっしゃい、薫ちゃん」


 ここまではごく普通の挨拶――対応だった。

 ところで、と姉は続ける。


「京介とはどこまで行ったのかなぁ?」


 ねっとりと気色悪い口調と笑みで、そんなことを聞いてくる。弟のプライベートに土足で入り込んでくるいやらしい奴だ。


「どこまでも、ですかねー」


 薫は適当にごまかした。いや、これはごまかしたと言えるのかな……?


「おやおや、『どこまでも』なんて、それはつまり……ぐへへへへ」

「えへへへへ……とても言葉にはできませんよー」


 二人で山賊みたいに笑い合っている。前々から思ってたんだけど、この二人って意外と相性いいのかな?

 はぁあ、と僕はこれ見よがしにため息をついた。やれやれ、処置なし。

 うるさい姉を無視して、僕は階段を上ろうとした――が、姉が僕に声をかけてくる。


「京介」

「なにさ?」

「私、これから部屋で勉強するんだから、あまり大きな声とか音出さないでよぉ?」

「出さないよ!」


 このように、姉は三つ年下の弟をからかってくるのである。

 姉に彼氏がいたら、僕も同じような返しをしてやるんだけど……残念ながら、姉のプライベートは秘密のヴェールに包まれている。弟に弱みを握られまい、となかなか隙を見せないのだ。


「薫、行こっ」

「あ、うん」


 手を繋いで引っ張ると、薫は心なしか嬉しそうな顔をした。


「あ、でも――」


 まだ何か言うか。僕は振り返る。


「――私、イヤホンで音楽聞いてるから、ちょっとくらいなら全然かまわないわよぉ。ぬへへへへ……」

「もうっ! うるさいなぁ!」

「薫ちゃん、ごゆっくりー」

「はい。ゆっくりしていきますっ!」


 姉と薫は手を振り合う。うーん、やっぱり相性いいよなあ、この二人。

 隣の部屋に姉がいるのに、こそこそとナニカに及ぶほど、僕と薫は盛ってないはず……。そんな、ケダモノじゃないんだから……。ねえ……?

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