第4話
「いや、なんでだよっ!」
一人でツッコむ僕に、薫は驚きながら怪訝そうな顔を向けた。
「どうしたの、京ちゃん?」
僕は答えずに、あやふやで曖昧な記憶を丁寧にたどっていく。
確か、某服屋でTシャツを買った後、チョコレート屋に行って……その後、記憶が曖昧にぼやける。つまり、そこで記憶が怪しくなる何かがあったということ。
チョコレート屋?
「ううっ……」
僕は頭を押さえながら低く呻いた。
「もしかして、まだ酔ってる?」
「…………酔ってる?」
酔ってるってなんだ? 僕は未成年飲酒でもしたのか? チョコレート屋で飲酒? え、どういうこと……???
「あ、もしかして、記憶飛んでる?」
薫はにやりと笑った後、ごほんと咳払いして、
「チョコレート屋で買って食べたウイスキーボンボンで、京ちゃん酔っちゃったんだよ。で、気分悪くなったからどこかで休憩しよってことになって――」
「それでホテルに?」
「そういうこと」
いや、なんでだよっ!
僕はもう一度、今度は声に出さずにツッコんだ。
カラオケとか喫茶店とかファミレスとか、休憩できそうな場所他にもたくさんあるでしょ。どうして、よりにもよってホテルに……? しかも、ここ……ビジネスな感じのホテルじゃないし。ムードのある薄暗いホテルだし。休憩(意味深)じゃないか……。
「京ちゃん、苦しそうだね……」
そう言って、薫は僕の服を脱がせにかかる。
「服を脱いで裸になれば、きっと気分もすっきりすると思うよ」
「いや、おかしいでしょ!」
「いろいろと出せば、さらに気分がすっきりすると思うよ」
「いや、いろいろってなんだよっ!?」
あれだよね? 胃の中のものだよね?
抵抗虚しく、僕は生まれたときの姿になってしまった。すっぽんぽん。
まさか、自分がここまで酒に弱いとは……。自称真面目な高校生の僕は、これまで酒を飲んだことが一度たりともなかった。だから、自分が酒に弱い体質だということを知らなかった。もっとも、酔いの原因となったのは、酒じゃなくてウイスキーボンボンなんだけど……。
どうやら、酔いというのは思考力や判断力を鈍らせる効果があるようだ。
つまり何が言いたいのかというと――。
「えいっ!」
服を脱いだ薫に押し倒されたのに、僕はろくな抵抗をしなかった。でも、それは、酔いによる効果というだけではなくて――。
多分、僕は幼馴染としてではなく、恋人として薫のことを好きになりつつあるのだ。つまり、『LIKE』から『LOVE』への心情の変化。
いや、もう既に薫ラブに染まっているのだろうか……?
もしかしたら、僕は薫の手のひらの上で踊らされているのかもしれないな、なんて思いつつ、彼女においしくいただかれたのだった。
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