第3話

「デートしよっ?」


 ある日のこと、幼馴染であり恋人でもある薫から、そんなことを言われた。断る理由なんて何もなかったので、「うん、いいよ」と僕は快諾した。そして、僕たちは電車に乗ってショッピングモールへと出かけたのだった。


 さて。

 本来なら、交際関係に発展した後に、深い関係になるはずなんだけど(一般的にはそうだと思う)、僕たちの場合、最初に肉体関係があって、その後に交際に発展したわけで……。

 ゲームに例えると、長い旅の果てにボスである魔王を倒すのが一般的だけど、僕たちの場合は魔王を倒してから旅に出かけるような――って、この例えはどうなんだろう? ちょっとおかしいかもしれない。


 まあ、それはともかく。

 最初に肉体関係を持ってしまったのだから、いまさら手を繋いでも、交際初期にあるだろう淡いドキドキ感はあんまりないし、デートをしてもやっぱりそういう淡いドキドキ感はあんまりない。もちろん、デート自体は間違いなく楽しいものではあるのだけれど、どうも首を傾げざるを得ない。


「どうしたの、京ちゃん? ……デート、楽しくない?」


 薫が不安げな顔をして、隣を歩く僕の顔を見つめている。

 僕は微笑んで、ゆるゆると首を振った。


「ううん。楽しいよ、デート。楽しいんだけど……」

「楽しいんだけど?」

「だけど、やっぱり順番を間違えた感があるなって思ってね」

「あー……」


 薫は微妙な顔をして、僕から目を逸らす。


「でも、ああしたから今があるわけだし……」


 うん、確かにその通りだ。

 肉体関係を持たなかったら、こうして薫と付き合ってデートをすることもなかったに違いない。……いや、なんだかんだで結局は付き合うことになっていたりして。でも、ここまで急速に僕たちの間柄が変わることは、他のルートではあるまい。


「もしも、デートに不満があるって言うんなら――」


 そこで、薫はにやっと小悪魔的に微笑んで、


「――ホテルで休憩でもする?」

「しない」


 僕は即座に却下した。

 別に僕は、薫とそういうことがしたいわけじゃない。そりゃまあ、僕だって思春期の男子なんだし、性欲がこれっぽっちもないわけではないんだけれど、でもだからといって、乱れまくった青春を送るつもりなんてない。


「じゃあ、どうする?」

「このままデートを続行しよう」


 僕たちは、もしかしたらブームが過ぎ去ってしまったのかもしれないタピオカミルクティーを買って飲みながら、混雑した街を練り練りと歩いた。様々な店に行って、服を買ったりご飯を食べたり雑貨を買ったりして――。


 ――気がつくと、ホテルのベッドにいた。

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