第2話

 目が覚めると、体がぐったりと疲れていた。虚脱感がすごい。

 どうして、僕はこんなに疲れてるんだろう? あれ……僕は一体どこで何してたんだっけ……? 

 ごろん、と転がると誰かにぶつかった。


「……ん」


 幼馴染の薫だった。

 薫は裸で掛け布団にくるまっていて、でもそれは僕も同じだった。

 一瞬、どうして僕たちは裸でベッドに――と思ったけれど、すぐに逃避していた現実が追い付いてきて、ドロップキックをかましてきた。

 ああ、そうだった……。僕は……僕は……。


「薫に、おいしくいただかれたんだった……」

「京ちゃん」

「うわあっ!」


 耳元で甘く囁かれ、僕はびっくりしてぴょんと跳び上がる。

 掛け布団が床に落ちて、僕と薫のすべてが露わになる。僕は慌てて股間を手で隠したけれど、薫は恥ずかしがることなくにやにやしている。


「どうしたの? 怒ってる?」

「いや、別に怒ってないけど……」

「けど?」

「僕たち、その……いたしちゃったん、だよね?」

「京ちゃんが悪いんだよ。『性欲ってある?』なんて質問するから、むらむらして我慢できなくなって――」

「ごめん」

「私のほうこそ、ごめん」


 薫は全裸で土下座した。なんだかシュールな光景だ。


「京ちゃんのこと、傷物にしちゃった」

「それ、女の子が言うセリフ?」


 多分だけど、違うと思う。

 とりあえず、僕はベッドの下に置き去りにされた、くしゃくしゃになった服を着た。

 僕の裸をもっと見ていたかったのか、薫は不満げに口を歪めた。薫は同じくくしゃくしゃな自分の服を一瞥して、興味がなくなったのか、僕の顔を愛おしそうに見る。


「ねえ、京ちゃん」

「なに?」

「こうなってしまった以上、責任とるよ」


 薫は僕の前で(全裸で)正座すると、真剣な表情で言った。


「結婚しよう」


 ロマンティックの欠片もないプロポーズ。

 僕は歓喜するわけではなく、ただただ困惑した。


「僕たち、まだ一五歳だよ」

「私たちの愛の前に、法律なんて無力だよ」

「愛ってほどのものじゃないと思うけど」

「京ちゃんにとって私は遊びなのかもしれないけれど――」


 遊びですらないけどね。

 ちょっとこの関係を言葉にするのは難しい。


「――私にとって京ちゃんは世界で一番愛しい人だよ」


 世界で一番愛しい人。

 それは、ただの幼馴染に言うようなセリフではない。ただの幼馴染以上の感情を抱いているからこそ、そんな歯が浮くような言葉が出てくるんだろう。

 薫は、僕のことが――好き。


「薫は、いつから僕のこと好きだったの?」

「……五歳のときから」


 薫は恥ずかしそうに顔を赤らめて、もにょもにょと言った。もっと前に、顔を赤らめるポイントがたくさんあっただろうに……。


「僕も薫のこと好きだよ」

「それって恋――」

「幼馴染として」


 僕がそう言うと、薫はしょげたような顔をした。

 その顔がとてもかわいらしくて愛おしくて、僕は不覚にもドキッとしてしまった。幼馴染だから今まで意識してなかったけれど、こうして意識してしまうと、薫に対するもにゃもにゃとした感情が沸々とわき上がってくる。


 もにゃもにゃ? これって、好きという感情なのかな……? どうなんだろう? うーん……?

 ――なんてことを考えたからだろうか。僕はこんな提案をしてしまった。


「結婚はまだ無理だけどさ、付き合うことだったらできるよ」

「……私と、付き合ってくれるの?」

「こうなってしまった以上、責任とるよ」


 今度は僕がそう言った。


「僕と付き合ってよ、薫」

「喜んで」


 薫は微笑むと、僕に抱きついてきた。

 そして――僕は再びベッドに押し倒された。


「いや、なんでだよ!」

「恋人になった記念でもう一度」


 くしゃくしゃな僕の服が、もう一度強制的に脱がされる。達人的な速度、芸術的な脱がせ方だった。


「というわけで――」


 薫が僕の上に覆いかぶさる。


「――いただきます」


 こうして、僕は再び幼馴染においしくいただかれたのだった。

 

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