第六話 時宿り
時宿り 1
さあ、では、長々と語った私のお話も、これで最後である。『
*
学校はない。と、言ったけれど、烏瓜村には、かつて学校があった。よくよく話を聞いてみると、それは、公的な機関ではなく、私塾のようなものだった。私たちの世代でいう、私のお兄ちゃんが子どもたちに勉強を教えていたのと、ほとんど同じだったのだろうと思う。どうやら先生役だった老人がお亡くなりになり、後を継ぐ者がおらず、『廃校』となったようだ。それから数年して、お兄ちゃんが――後を継いだわけではないけれど、似たようなことを始めたのだとか。その昔の先生役であった老人が住み、また、教え子たちが集まっていた屋敷が、当時では学校と呼ばれたり、呼ばれなかったりしていた。とにかく機能としては学校らしさを、幾分か保ってはいたのだろうと、それくらいのものである。
「だる……」
そんな学校の残り香みたいな屋敷の一室にて、私は机に突っ伏した。このころには自覚的に『ダサい』と理解していたジャンパーを、まだ着続けて。まったく進んでいない課題を押し潰すように、体重をもたげたのだ。
「よりちゃん、全然進んでないじゃん」
「そりゃ進まないよ。なんでんかんでんだもん」
「ちんぷんかんぷん?」
「それ」
ふ……と、鼻で息を吐く、小さな音が聞こえた。机に突っ伏して、彼女の顔を見れていなくても解る。それは、困ったようにはにかむ、定子ちゃんの癖だった。
「じゃ、ここまでやって、よりちゃん。できなかったところは、わたしがやるから」
そう、優しく言って、定子ちゃんは、私の課題にチェックをつけた。
「んー……」
それで、私はしぶしぶ肯定した。正直、彼女のその助力に甘えていたところはある。だらけてれば定子ちゃんがそう言ってくれると信頼していたから。だけれど、言われてみると罪悪感が芽生えるし、それにより、自分でやろうというやる気も出てくる。……やる気が出てこようと、解けない問いは解けないのだけれど。
*
あのころ、どうして私たちが勉強していたか――というより、勉強をすることが必要だったかというと、学校に通っていたからだ。いや、なんだかこれは、正確じゃない。学校に所属していたから。かな。いわゆる、通信制の高校に所属していて、月毎に課題が与えられ、それをこなすことで高校卒業という箔を手に入れることができた。それを、目指していたのである。
とはいえ、どうしてそうまでして、高卒資格が欲しかったかというと、なんのことはない、
ともあれ、そういった理由で、私はずっとサボってきた勉強に、とうとう着手しなければならない境遇になってしまった、というわけだった。
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