第五話
「話は聞かせてもらった!」
バァーン!
ただでさえも壊れそうな扉を勢いよく開け放ち、1人の男が堂々と参上した。
氷見野さんと知恵ちゃんはそのビフォーアフターみたいな顔を豆鉄砲を食らったように驚きの色に変えている。
ついさっき。
総平はいない、と知恵ちゃんは言った。
「いるじゃん!?」
風車総平。
神佑大学別館に登場。
ただ、おれの絶叫を聞いて「俺は幸雄くんに連れてこられたんだよ?」と心当たりのないセリフをのたまった。
「おれに?」
「うん」
覚えてねえ。
それほんとにおれ?
総平は手近にあった丸イスに「どっこらしょ」と座る。
氷見野さんもテキトーな丸イスに腰掛けたので、おれもそれに倣うことにした。
「4人の記憶をここで整理しておこう」
総平が仕切り始めた。
まあ、知恵ちゃんも氷見野さんもおれも総平も、それぞれこの14回目の世界で知っていることが違いそうだし。
意見の交換はしておいたほうがよさそうだ。
おれが頷くと、総平は「まず、知恵ちゃん。ここは2022年で14回目の世界で間違いない?」と氷見野さんの後ろのパソコンに向かって確認する。
「そうだよ。このせかいのでーたべーすから、そうへいと“創造主”のでーたはきれいさっぱりきえている」
おれは「オーサカ支部がなかったことになっていて、築山の起こした事件もなくなっていた。起こしていないことになってる」と付け加える。
総平は自分の額に右人差し指を押し当てながら「なるほど?」と思案顔だ。
「そうへいがいないから、こんかいどうしようとこまっていたら、まさひとがきてくれた」
画面の中であたふたする知恵ちゃんを想像する。
ちょっと可愛いかも。
「氷見野さんは今どちらに住んでいらっしゃるんですか?」
『風車宗治と共に田中という老夫婦の家に居候している』
「あー……うちの親父がすみません……」
自分の家は?
いや、復活してきたってことは元々住んでいた家がないのか?
親族とかその辺の付き合いがどんなもんかわからんけど。
でも、死んだ親戚が高校生になって「泊めてほしい」って言い出しても困るよな……。
警察呼ばれるか病院送りされるかだよ。
だからって野宿するわけにもいかんだろうし。
『風車宗治の能力【威光】で、彼らは完全に我々を“孫”だと思い込まされている』
総平がさらっと「クズ……」って呟いたの聞き逃してないからな。
「話を戻すけど、おれは総平を連れてきた覚えはない」
14回目の冒頭を思い出そう。
2022年8月26日。
おれは例によって例のごとく自分の席で居眠りしていて、霜降先輩に叩き起こされるところから始まった。
それより前の記憶はない。
13回目の強制終了シーンから14回目のスタートまではシームレスに【移動】させられたし。
この間におれと総平が会話したんだとしたら、その会話の記憶がない。
総平は背筋をピンと伸ばすと「2021年の8月25日の話をしようか」と振ってきた。
おれの視点では辿り着いていない“過去”の話だ。
気になる。
あのあとに何が起こったのか。
「秋月千夏は第四の壁から“偽アカシックレコード”を手に入れ、この世界にとっての不純物――元からこの世界の登場人物としては設計されていなかった俺とクリスさんを物語から抹消した。結果、俺とクリスさんはこの世界から追い出されて、真の世界に戻った」
何それ。
やってんな。
「死んでしまった弟の智司や芦花さんの……2人の死を受け入れて、現実で生きていこうと決意した。そこに現れたのが幸雄くんだよ」
「おれ!?」
「俺の目の前に現れた幸雄くんは『ぼくを助けてくれるではなかったか?』って言って、問答無用でこの14回目の世界に俺を連れ戻した。で、着いたら着いたで幸雄くんは『あとはシンがパーフェクトに導いてくれるだろう!』って忽然と消えちゃったからとりあえず知恵ちゃんところに来た。なう」
わかった。
その言い回しで理解しちゃったな。
おれじゃない。
この世界の篠原幸雄がおれのためにやったんだ。
味方になってくれるはずのオーサカ支部はないもんな。
みんな前回までの記憶なくなってるし。
作倉さんはあんなことになってしまった。
ふーん。
ふふーん……。
「お前が来いよ!」
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