第六話
積もる話があるらしい知恵ちゃんと氷見野さんは別館に残して(鍵は氷見野さんに渡して、「鍵は壊すんじゃなくてちゃんと鍵を借りなさい」と説教しておいた)、おれと総平は風車宗治が生前に建てた一軒家までやってきた。
前回までは風車総平と智司の2人で暮らしていた家だ。
ヒーロー研究課の本拠地でもある。
「何すか?」
インターホンを鳴らして出てきた青年はおれたちをとてもとても警戒していた。
まあ、平日の夕方に男2人がきたらこんな反応になるわ。
「智司、あのさ」
こいつが風車智司か。
全く別の人が住んでいたらどうしよう、とここに来るまでに総平とも話をしていたけど、そんなことはなかったな。
ちゃんとこの家に住んでいた。
顔立ちがなんとなく風車宗治に似ている。
写真で見たあの顔をマイナス20歳ぐらいしたらこうなりそう。
「おっさん誰?」
「うっ!」
実の弟から“おっさん”と言われてダメージを受けている総平。
いや、この14回目の世界に風車総平が存在しないなら、智司は一人っ子?
存在しないってのがどんなレベルなのかわからん。
この反応から考えると、そもそも産まれてない疑惑がある。
開始時点で総平が死んでいることになっているんじゃなくて。
というか、ヒーロー研究課もないってことか?
あれは総平のために作倉さんが作った部署だから。
「新聞ならいらないんで」
「待って!」
扉を閉められそうになって慌てる総平に「用件は何すか?」と言い放つ智司。
一緒に映画を観に行くぐらい仲良かったっぽいのにこの対応されるのつらいな。
智司にとっては全く知らないおじさんなんだろうけど。
「俺がいなくても幸せか?」
うーん、その質問は……。
おれが口を挟む前に「宗教の勧誘も断ってるんで」と答えられて、扉をバタンと閉められた。
あーあ。
やっちまったなあ。
「……元気そうでよかった」
肩を落とし、トボトボと歩き出す総平。
まあ、そうね。
自分がいなくとも健康に育っていることがわかっただけでもよしとしてほしい。
「これからどうする?」
おれが訊ねると「組織に行って、作倉さんに話をしてみようと思う。作倉さんならわかってくれるよ……たぶん」と答える総平。
残念だけどおれ自宅謹慎中なんだよなあ。
「作倉さん、今入院してる」
「えっ!?」
そういやまだ話してなかった。
あの場で話すようなことでもないし。
「おれも作倉さんに協力してもらおうと思って、いろいろ話をしていたら、急に発狂して……めが痛いって言うから救急車呼んでさ。“組織”では『篠原がなんかやったんやろ!』って勝手に決めつけられて今俺自宅謹慎中」
天平先輩なあ。
本当に悲しくなってくる。
オーサカ支部での活躍がなかったことになっているから仕方ない、で割り切れるもんでもない。
割り切っていかないといけないけど。
「……親父が死んだあと、作倉さんは『わたしが宗治くんを殺した』と思い込んで俺に謝るようになった。なんでだかわかる?」
本部の手前まで来た。
おれを連れて“組織”に入ることはできないと判断してくれたのか、公園のベンチに座る。
総平1人ならなおさら無理だもん。
今この状態の総平は部外者だから。
「風車宗治の死因って『風呂場で足を滑らせた』ってやつだよな?」
政治あんまり興味ないけどデカデカとニュースになっていたので覚えている。
絶大な人気のある風車宗治首相が突然の死だもん。
そりゃああちこちで追悼特集されるよ。
「作倉さんの能力【予見】は“未来を確定させる”効果もある」
え。
過去と未来が視えるだけじゃないんだ。
チートじゃんそんなの。
「一度視た未来は、それがどんなものであろうと確定する。宝くじの当たり番号が見えたら、その番号で絶対に変わらない」
「チートじゃん」
「……だから、作倉さんは親父の死を確定させてしまった。それをずっと後悔してる」
ああ。
それで……?
「俺は能力者の研究をしていた氷見野さんを頼って、俺があの別館まで連れてきた。氷見野さんのおかげで元通りとはいかないまでも回復したんだよ」
この世界には総平がいないから、連れていかれることもなく?
忘れさせてやれよ。
風車宗治のことを。
みんなの記憶を全部リセットできるんだったら、それぐらいできるんじゃん?
無理なの?
……わかった。
おれのせいではないってことを証明しよう。
「秋月千夏に会おう」
おれが提案する。
その“偽アカシックレコード”を現在持っているのはその子なんでしょ?
どこにいるか知らんけど。
この14回目の世界がおかしくなっている原因がそこにあるとわかっているのなら。
おれの目的である“ハッピーエンド”にいちばん近付けるような。
あと、白菊美華は絶対に許さない。
「俺は親父に会いたいかな。氷見野さんのそばにいてまた迷惑かけてそうだから」
【none the less】
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