第3話
「オーサカ支部!?」
素っ頓狂な声を上げてしまうおれ。
いやいや、思い出せ。
本の通りの展開ではないか。
ぼくは「エイプリルフールにしては遅すぎでは」と作倉さんに抗議した。
いい返しだ。
もう8月も終わるからな。
「いいところですよ」
作倉さんは微笑みながらそうおっしゃるが、この先の展開を知っているおれには疑問符しかない発言だ。
ぼくの苛立ちが直に伝わってくる。
態度に出てしまっていたのか、続けて「うらやましいぐらいですけどねえ」と付け加えられた。
作倉さんの能力は左右の瞳でそれぞれ過去と未来を視る【予見】だ。
色の濃いサングラスで隠されているが、瞳の色が異なる。
かっこいいのでおれも【疾走】を発動したら目の色が変わる演出が欲しい。
「作倉部長、かっこいいからという理由での異動。考え直していただけませんか?」
作倉さんがおれをトウキョーの本部から遠ざけたいのは単に容姿が良すぎるからだけではない。
おい。
聞け。
この時点でのお前は【疾走】の仕様を理解しきれていない。
オーサカに着くまでにおれが特訓してやろう。
覚悟したまえ。
「正直、あなたのような素晴らしい人材をオーサカ支部に送るのは心苦しいですよ? 素晴らしいからこそぜひ、篠原幸雄くんに行っていただきたい。よりよい世界のためにはその才能を存分に活かすべきだと思いますけどねえ」
出た。
流れるような“心にもないお世辞”!
いいかぼく。
この人はいわゆる『褒めて伸ばしてくる』タイプの上司だ。
この言葉をそのまま受け取ってはいけない。
(作倉部長はぼくの優秀さを理解してくれるエクセレントな存在だ)
効果は抜群だ!
ってところか?
気分が良くなったところで、そろそろおれと代わってくれ。
(いいだろう。くれぐれも失礼のないように)
それはどうかな。
まあ、うまくやるよ。
「……おれはオーサカ支部へは行きません」
未来を変えるための最初の選択肢はここだろう。
ここでオーサカ支部へ行かず、本部に残っていればおれは必ずや戦力となる。
アンゴルモアへの対策を講じよう。
チーム一丸となって立ち向かえば“組織”の全滅は避けられる。
絶対に。
「秋月千夏さんのことはご存知でしょうか」
ぼくも考える。
本部のメンバーにそのような名前のガールがいた。
今日はバースデーのために休暇を取っている。
共にチームを組んだメモリーはない。
「彼女の能力の【相殺】は相手の能力をコピーする効果がありまして、あなたの【疾走】と組み合わせると非常に危険でしてねえ」
能力のコピー。
そんなスキルがあるとは……。
一度この世界の全能力者のリストに目を通しておく必要がありそうだ。
あとで忘れずにやろう。
「できる限りあなたとは遠ざけたいんですよ」
それなら、彼女のほうをオーサカ支部へ送ればよいのでは。
今年の4月に“組織”へ所属になったばかりの彼女を武者修行へ。
「おれは本部にいなければならないのです。わかっていただけませんか?」
作倉さんはサングラスを外してレンズへ息を吹きかけるとメガネ拭きでこまめに拭き始めた。
このぼくが上司の決定に不服を申し立てるなんて、これまでのぼくならば考えられなかったムーブだ。
そうか。
ならば言おう。
「このままでは作倉さんは殺されるんです」
「ええ。知ってますよ」
は……?
なら、どうして……?
「わたしの能力を忘れたんですか? 【予見】は未来も視えますので」
なおのことぼくは残るべきでは。
ぼくの【疾走】があれば、殺される直前に駆けつけて霜降先輩を説得できる。
作倉さんがサングラスをかけ直す。
「逆に、あなたはどこでわたしが殺されることを知ったのですか?」
まあ、聞かれるだろうな。
作倉さんには話しておこう。
生存ルートを目指すために上の立場の味方が必要だ。
クリスさんは――おれを殺してきた相手だから、できれば顔を合わせたくはない……。
「おれは“アカシックレコード”の外から、この“アカシックレコード”の世界を救いにきた“ヒーロー”ですよ。作倉さんも必ず救います」
おれの言葉に、作倉さんは「面白いことを言いますねえ。もう一度顔を洗ってきたらどうです?」とまるで信じていない様子だった。
おい。
ぼく。
この世界のおれ。
聞こえるか?
作倉さんの親密度低くないか?
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