第4話
「ぼくは篠原幸雄。
今年で24歳になった。
芸能事務所の取締役のパパと国際弁護士のママの間に生まれ、素晴らしい両親に認められるようパーフェクトな存在を目指すべく日々邁進している。
所属している“組織”ではそのエクセレントな仕事ぶりを買われて9月1日からオーサカ支部での活動を命ぜられた。
能力はママからいただいたチロリアンハットを宙に放っている間の時間の進みを遅くする【疾走】で、このタイムはパパからのプレゼントである腕時計によってコントロールできる」
昨日の午後、ぼくの脳内にアドベントしたもうひとりのぼく――“この世界の外側からこの世界へと転生してきた篠原幸雄”はぼくの改めての自己紹介に「ツッコミどころしかない」という感想を真顔で述べた。
どこもボケてはいない。
ぼくがきみに嘘をついたところでメリットがない。
次はきみの番だ。
「おれは篠原幸雄。
昨日説明したように、この世界は“アカシックレコード”と呼ばれている“正しい歴史”の本の世界だ。
もっと正確に言えばクリスさんが創った偽の“アカシックレコード”の世界だが、まあそれは置いといて。
おれは現実の世界でクリスさんに殺されて物語へ転生してきたわけで、この世界をハッピーエンドに導くのが終了条件になる。
お前に自己紹介を頼んだのは『おれの過去』と『ぼくの過去』とに食い違いがあるように思えたからだ」
この世界はフィクションであり、ぼくはキャラクターの1人でしかない。
その言葉を理解するための根拠としては“ぼくが浮世離れした美しさである”という点ぐらいしか思い浮かばない。
「……事実ではあるが呆れるほどに自信満々だな」
ぼくはぼくの姿をしたきみがフレンドになってくれて嬉しい。
ぼくの理解者はぼく自身しかいないのだと確信した。
きみもぼくのスタイルを得られて嬉しいだろう?
もっと喜びたまえ。
「その自信を打ち砕くために、お前の言葉をひとつずつ訂正していこうか。
まずお前の父親は篠原雄蔵ではない。
嫡子の那由他がゲーム漬けのボンクラ息子で会社を任せられないから、自身の事務所に所属しているアイドルと顔だけはいい俳優との間にできた隠し子を養子として受け入れた」
信じられない。
ぼくはぼくのパパを尊敬している。
そんな話は一切聞いたことがない。
「おれもあの男を“パパ”だと信じていたよ。
あの男が原因となった事故でおれの顔半分が焼けるようなことがなければ、信じ続けていたかもしれない」
……。
「あの事故さえなければ、現実のおれも今のお前と同じ顔になっていた可能性はある。
おれはてっきり、『見た目のせいで周りの人間から忌避され疎まれて絶望し』『父親が取締役をしている芸能事務所の入ったビルの屋上から身を投げ出そうとしたところを作倉さんに救われた』というプロセスがあっての現在だと思い込んでいたが、今のお前の立場を鑑みるとあの事故があってもなくても“組織”には所属するようだな。
あーあ。
身も心も痛かったのになあ」
……ぼくのメモリーにそんな悲惨な事故はない。
パパは多忙の人ではあるが、ぼくを愛している。
「どうだろう?
養子とはいえ子どもに手を出すオトナだぞ。
心の底から愛してくれていたのかな……都合のいいオモチャとしか思われてないんじゃ……?」
オーケー、これ以上の詮索はやめよう。
ぼくがリスペクトするパパをこれ以上貶める言葉をぼくの口から聞きたくはない。
「賢明な判断だ。
おれもお前に不幸自慢をしたいわけではないからな。
能力について話そうか」
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