第2話 言い間違いと誤嚥

「早く出して! 運転に集中出来ないよー。早くそのデカイ蚊出して!」

 助手席でスマホをいじっている娘に、車の窓を開けるように催促する。


 足の長いの名前って何だったかしら? 思い出せない。そう、ノド仏まで出て来てるのに名前が出てこないんだよ。仏って必要? 


 五十過ぎるととかとか言っちゃう回数の多さよ。まさか自分の脳ミソがそうなるとは思わなかった。


 娘はどんな時も冷静だ。母親の口からどんな言葉が飛び出すか待っている。少し期待してますか? これまでもあったよ、確かに言い間違えましたけど。


「ホッチキス食べる?」「サンドイッチの事だよね」

「いがりぶっこ買ってく?」「は食べないから」

「二晩、寝込ねこんだカレーは美味しいね」「煮込んだんでしょ?」


 お母さん、ほんとやめて! いちいち訂正するの面倒くさいって顔でデバネズミを扱う娘。放置プレーも何度もされた。ガビーン。昭和の落ち込み。


「思い出した! 早くその出して!」「ガガンボだよ!」撃沈。


 ───どうしちゃったのかな、私。濁音は合ってるのよ。オヤジギャグを連発してるわけじゃないの。一生懸命に生きてるの! 精一杯思い出してるの。


 悲しくたって〜。苦しくたってー。おうちの中では平気なの。ふん、平気よ。


 そういうとこだぞ、デバネズミ。不貞腐れてはいけません。娘に愛想尽かされないように頑張ろう。あっ、いい事思いついた。言い間違いには言い間違い。人には人の乳◯菌。あなたも間違う事あるよね! この作戦で立ち向かおう。


 娘の言い間違いを思い出す。出るわ、出るわ、乳酸菌の威力。知らんけど。


 あれは二年前の節分の事でした。恵方巻きという縁起の良いものを食べようと、娘に今年の方角を聞いたデバネズミ。まず口の中を潤そうとお茶を啜り、


「今年の方角はどこだったっけ?」お茶をすすり、すすり、返事を待つ。


 口に入れた次の瞬間、「南北東じゃない」ブハッ、ヒエー、ゲホゲホ。


 どっちやねん(怒)いや何処向いて食べるの? ゲホっ。死ぬかと思った。


 貴女はこうも言いましたね。優雅なティータイム。おやつにクッキーなどを頂こうとする私。クッキーよ、危険な食べ物と心得てるわ。紅茶で喉を潤してから頂くわ。紅茶を啜り、すすり、すすり、ウェルカムクッキー。


 紅茶を口に入れた次の瞬間、「ステラババアのクッキー美味しいね」


 ヒイッー、ゲホッ、ゲホ。おばさんでしょ! ステラババアに謝りなさい。


 イ◯ジンでうがいをする私。貴女は私の身体を気遣ってこう言いましたね。


「お母さん、それって入ってるよ、大丈夫?」ゲホッ、ヒイッ。死ぬ。💀

 

 お母さんはヨウ素の取りすぎに注意をすればいいの。ヒ素はたぶん、みんな取っちゃダメだと思うの。そう、ヒ素は。たぶん、みんな。知らんけど。


 水分でもむせるお年頃。誤嚥注意。更年期は声が低くなるでしょ。きっと喉の筋肉も衰えてきてると思うの。電話の時は一オクターブ高いけど。


 言い間違いも誤嚥も落ち込む症状。私はとにかく笑いに変える。幸年期にするためには、自分の老化現象を笑いに変えるのって大事です。ドヤっ!


 ん!? 冷静になって考えると、娘の場合は言い間違いではなくて、物を知らないのだという事に気がついた。きっと適当に覚えたのね。


 お母さん、カエルって昆虫の仲間なのに柔らかいね。違う、両生類ですから!

 お母さん、首洗って待っててね。それを言うなら、首を長くしてです!


 マジ卍が口癖だった高校生の頃の娘。反抗期と更年期は重ならなかった。


 いつも笑いをありがとう。お母さんが幸年期でいられたのは貴女がおとぼけだったから。うん、デバネズミの遺伝子ともいうね。


 更年期は笑いで幸年期に変わります!


 このエッセイは一万字。いちまんじ。マジ卍。似てるー。


 キャハハ。


 そういうとこだぞ! デバネズミ。




 



 


 


 


 


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