第4話:報酬

「着いたよ、コシー。ここが冒険者ギルド」


〔これは、なかなか巨大な建物ですね〕


メトロポリはとても大きな街なので、ギルドも大きかった。常に人が出たり入ったりしていて、とても活気がある。


「ボーランたちがいないといいんだけど……」


僕は先ほどの出来事を思い出して、少し暗い気持ちになった。


〔マスターにひどいことをした人達のことですね? もし会っても、私がコテンパンにしちゃいますから、安心してください〕


ここに来るまで、コシーにはボーランたちのことを少し話していた。ギルドに入って、そっと辺りを見回す。どうやら、今はいないようだ。


「良かったぁ」


僕は静かに胸をなでおろす。


「まずは、受付に行ってみよう」


カウンターに、サイシャさんがいるのが見えた。赤みがかった髪と、頬のあたりにあるそばかすが印象的な人だ。女の子と言うと誤解が生じるし、おばさんと言うと怒られそうな微妙な年齢に見える。


「あのぉ、すみません」


「アイトさん!」


サイシャさんとは、面識があった。初めてこの街に来た時、勝手がわからなかった僕を、彼女は色々と案内してくれた。その恩返しにと、重い荷物を運ぶのを手伝ったりしていたら、自然と仲良くなっていた。


「どうも、サイシャさん」


「ボーランさんからパーティーの脱退届が出されたんで、どうしたのかと思いましたよ」


「だ、脱退届?」


ボーランたちは、本当に僕を追放してしまったみたいだ。それを聞いてショックを受けた。だけど、正直もうどうでも良かった。コシーという優しい仲間ができたからだ。


「こう言っては何ですが、アイトさんはボーランさんのパーティーには合っていなかったように思います。失礼かもしれませんが、むしろ良かったのではないでしょうか?」


彼女の言うように、逆に良い機会とも考えられる。無事に帰ってきた今、かえって清々しい気分の自分がいた。


「そうかもしれません。そうだ、サイシャさん。グレートウルフの“ピース”をゲットしたんですが、ちょっと見てくれませんか?」


「グ、グレートウルフ!? もしかして、一人で討伐したんですか!?」


僕は小声で言ったのに、サイシャさんが大声を出した。周りの冒険者たちが、ジロジロと僕を見てくる。


「おい、グレートウルフだってよ……」


「マジか、あんな強いモンスターを……」


「すげえな、アイト……」


Aランクモンスターを一人で討伐できるなんて、それだけでギルドのエースになれる強さだ。


「ま、まぁ、一人というか二人でと言うか」


〔倒したのは私ですが、全てマスターのおかげなのです〕


「え? な、なに? 急に女の子の声が聞こえる」


「サイシャさん、ここですよ」


僕はコシーを取り出して、机の上に乗せた。コシーはペコリとお辞儀をする。


〔こんにちは〕


「か、かわいい!」


「どうやら、僕のテイム対象は無生物だったらしいんです。この子は小石から生まれた女の子で、コシーです」


〔コシーと申します。どうぞよろしくお願いいたします〕


サイシャさんは笑顔で、コシーを撫でまわしている。コシーも何だか嬉しそうだ。二人を見ていると、微笑ましい気持ちになる。


「アイトさんにこんなすごい力があったなんて、とても驚きました。きっと神様が、ちゃんと見ていてくれたんですよ」


「そんなものなんですかねぇ」


「そうだった、“ピース”でしたよね? グレートウルフの“ピース”なので、高く売れますよ。もしくは良い装備が作れると思いますけど、どうしますか?」


「う~ん、そうだなぁ」


サイシャさんの言うように、お金にしないで強力な装備にする案もあった。


(グレートウルフの“ピース”なら、上等な武器が作れるだろうな)


しかし、僕はもうボーランたちのいる宿に戻りたくなった。荷物に関しては、奴らにくれてやる。元々大した物を持っていないのが、不幸中の幸いだ。となると、まずは当面の生活費を手配しないといけない。


「売ってお金にします。装備も魅力的だけど、まずは生活費を稼がないといけませんから」


「そうですか、わかりました。ということは、アイトさんはしばらくこの街にいるってことですね?」


「ええ、そうですよ」


「良かったぁ~」


サイシャさんは安心したように言ってきた。


「え? 良かったってどういう……」


「あ、いや、別に大した意味は……」


僕たちの間を、気まずい感じの空気が流れる。しかし、どことなく甘酸っぱいような……。


〔ウウン!〕


コシーがひときわ大きな咳払いをした。僕らはびっくりして、現実に戻ってくる。


「ど、どうしたの、コシー!?」


「コシーちゃん!?」


〔それはそうと、後がつかえてますよ〕


知らないうちに、僕の後ろに列ができていた。みな疲れた顔で、僕らのことを恨めしそうな目で見ている。


「す、すみません、アイトさん! すぐに換金しますね!」


「い、いえ、こちらこそすみません! ボーっとしちゃって!」


僕はサイシャさんからお金を受け取ると、慌ててギルドから出て行った。







グレートウルフの“ピース”は、かなりのお金で売れた。当分、宿の心配はいらないくらいだった。もちろん、このような大金を手に入れたのは初めてだ。


「こんなにお金を貰えるなんてね」


〔マスターなら、もっと貰ってもおかしくないですが〕


コシーはさっきから少し不機嫌そうだ。


「ま、まぁ、とりあえず宿を探そうか」


僕らは豪華でない、普通の宿屋に入った。すぐに全部使ってしまうのは、さすがにやめておいた。コシーは小さいので、一番狭い部屋で十分だった。露店で簡単な食事を買い、部屋に入る。


「コシーも食事はするの?」


僕は念のため聞いてみた。石でできているから、その必要はないだろうけど。


〔私は食べなくても平気ですが、マスターの食べている物を私も食べてみたいです〕


僕はパンを小さくちぎって、コシーに渡した。


「はい、どうぞ」


〔ありがとうございます、マスター。とっても、おいしいです〕


「そう、良かった」


そろそろ寝ようということで、僕は適当な布で簡単なベッドと枕を作ってあげた。


「どうかな?」


〔とても心地良いです〕


〔おやすみなさい、マスター〕


そういえば、ボーランたちといた時はこんなにゆっくりできなかった。夜はいつも一日の整理と、翌日のクエストの準備で大忙しだったから。彼らは酒を飲むばかりで、一度も手伝ってくれることはなかった。ふと横を見ると、コシーはスヤスヤと眠っていた。


「信頼してくれる仲間がいるなんて、安心するなぁ」


久しぶりに、僕はゆったりした眠りに入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る