第28話 本当に怖いモノ
カユードはハーツと一緒に『
街自体は『
その為、小さいながらも最低限の物は揃っており、滞在するのに困る事はない。
しかし、街の様子は慌ただしく、街に到着してからハーツは怪訝な表情を浮かべていた。
「俺はこの街には何度か来た事があるが、どうも様子がおかしい。ちょっと情報収集をしてみよう」
一瞬カユードは自分もそれに付き合わないといけないのかと思ったが、街の異様な雰囲気が気になったのも事実なので、大人しくハーツの後に付いて行った。
交易街『トーマリ』の冒険者ギルドの受付に到着した二人は早速、受付嬢に事情を聞いてみた。
「なぁ、嬢ちゃん。街がいつもより騒がしいみたいだが、何かあったのか?」
「あれ?知らないの? 『
それを聞いたカユードは一瞬、心臓が跳ねあがる思いであったが、自分に関係ないと小さくかぶりを振った。
「おう、そうか。で? そいつは魔物なのか? もう討伐されたのか? いや、討伐されたらこんなに騒がしくないか・・・・・・・・・・」
「ご察しの通り、その主はまだ討伐されていないわ。何でも
それを聞いたカユードは自身の耳を疑った。
「
「詳しい事は分からないけど、何でも南方守護職のガルシア家の人がその魔物と戦って大怪我を負ったらしいわよ。それでこの街の冒険者に救援要請が来たの。だから、街が騒がしいのよ」
更なる衝撃がカユードを襲った。動悸が激しくなるのを感じ、膝を地面に突けた。
カユードの異変に気付いたハーツはカユードの肩を担ぎ、近くの椅子に座らした。
「どうした? 大丈夫か?」
ハーツが心配そうにカユードを見つめる。が、カユードは何も答えない。ハーツは更に続けた。
「オメェ、ガルシア家の者か?」
「―――!?」
カユードは目を見開いてハーツを見た。そこにはハーツの言葉が信じられないと言った表情をしていた。
「さっきの受付嬢の話で急にオメェの様子が可笑しくなかったんだ。どんなバカでも気がつくぞ? カユードが少なからずガルシア家に通じているってな」
カユードは自分の動揺具合に呆れ果てた。そこまで分かりやすかったかと・・・・・・・・・
「あぁ、察しの通り、僕はガルシア家の者だ。いや、だったと言った方が正しいか・・・・・・・・」
「―――――カユード・ガルシア」
ハーツの言葉にカユードはもう驚かない。ガルシア家に所縁のある者で、カユードの名。その答えは一つしかない。
「オメェの噂は色んな所で聞いた。役立たず。臆病者。ガルシア家の恥さらし」
「ふっ、どれも本当の事さ。ハーツもそんな僕を知って、失望したかい?」
「いや、こんな噂程度で失望したりしねぇ。ただ、今のオメェを見ている方が不愉快だ」
「―――ッ、君に僕の何が分かるっ!」
その言葉でカユードは堰を切った様に今までの事をハーツにぶちまけた。
―――幼少からの厳しい剣術の修行の事。
―――どれだけ気持ちを奮い立たせても対人では怖くて怖くて仕方ない事。
―――職業加護が『スカウト』を授かってからガルシア家の中で立場が悪くなった事。
―――唯一の味方だと思っていた妹のマリィに罵詈雑言を浴びせられた事。
「僕はどれだけ努力しても報われないんだ。そんな人間がこれ以上何が出来る・・・・・・・・・・・」
カユードは血が滲む程拳を握り締め、苦痛に顔を歪ませている。すると、ハーツがカユードの胸倉を掴み、自身の顔へ引き寄せた。
「あぁ、オメェは噂に違わず臆病者だよ!」
「―――――っ」
面と向かって本当の事を言われたカユードは思わずハーツから顔を逸らしてしまう。ハーツはその巨眼を見開き、カユードを怒鳴った。
「誰だってなぁ、戦うのは怖いし、傷つくのは怖いんだあ!ましてや、死にたいって思ってるヤツ何て一人もいやしねぇんだよ!」
「それでも人は怖いのを我慢して戦うんだよ。自分の大事なモノを守りたい為になぁ!オメェにはそれがねぇのか? あぁ?」
カユードはハーツの怒気を孕んだその双眸から目が離せなくなっていた。
「それになぁ、オメェの妹にちょっと嫌な事を言われたからってグチグチ言ってんじゃねぇ! その言葉が本当か嘘かなんて俺もオメェも分からしねぇ。でもな・・・・・・・・・・」
「―――――オメェがガルシア家で過ごしていた時に感じていた気持ちは全部本当だろ? 真実だろ?」
「―――――!?」
「辛い事もあったかもしれねぇ、でもなぁ、楽しかった事も、幸せを感じた事もあっただろう? オメェのさっきの話の端々に俺はそれを感じたぞ」
「オメェが本当に怖いモノはなんだ?」
カユードは顔を伏せた。自分が本当に恐れている事。
―――戦う事?
―――傷つく事?
―――他者を傷つける事?
―――死ぬ事?
どれも確かに怖い。出来ればしたくないし、されたくない。でも、最も怖い事は・・・・・・・・・
(大切な家族が傷付く事。そして、マリィのあの笑顔を失うのが―――何より怖い)
臆病者とはいつでも決断するのが遅い。しかし、一度意思を固めたら簡単には覆らない。
カユードは真っ直ぐな瞳でハーツを見つめた。そこには一切の迷いはなかった。
「ありがとう、ハーツ。―――――僕行くよ!」
カユードは冒険者ギルドを飛び出して全力で駆けた。マリィが二度と自分にあの笑顔を向けてくれないとしても、何もしないのだけは耐えられなかった。
「って、おい! 待ちやがれ! 俺も行くってのに・・・・・・・・・・」
ハーツは急いでカユードを追いかけたが、交易街『トーマリ』を出た頃には背中しか見えていなかった。
「アイツ速すぎだろ・・・・・・・・・・」
ハーツは街の門の所に併設されている厩舎に駆け寄り、近くにいた馬の世話をしている男に金の入った麻袋を投げつけ、強引に馬を奪って行った。
「悪い、ちょっと借りるぞ!」
麻袋を投げつけられた男は何か喚いているがハーツは気にせずカユードを追い掛けた。
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