第18話 うっかり者VS冷徹残忍

 

 完成した鬼火プラズマのカイトシールドを背中に携え、『ザラス鍛冶店』を後にしたアルとノイは早速その鬼火プラズマのカイトシールドの性能を確かめようと魔物討伐に向かおうとしたが、先ほどのジョーの言葉をアルは思い出した。


「なぁ、ノイ。 この盾の性能を確かめる前に『イル・サンサーナ神殿』に行って、職業加護を再鑑定して貰わないか?」


「あ〜、そうだね。ジョーがそんな事言ってたね。うん、いいよ。行こう。『イル・サンサーナ神殿』は冒険者ギルドの裏手にあるし、それが終わってから魔物討伐の依頼を見に行けばいいしね」


 ノイはアルの意見に快く同意した。二人は温泉の街『プベツイン』の大通りを抜け、冒険者ギルドの裏手へと回った。


 『イル・サンサーナ神殿』に入ったアルとノイは受付の神父に声を掛けた。


「すいません、職業加護の再鑑定をしたいんだが」


「はい、構わないよ。では、こちらへ」


 その神父はアルとノイを創造神イル・サンサーナを祀る祭壇まで案内した。


「では、どちらから再鑑定をするのかな?」


「じゃ、私から!」


 ノイが勢いよくその神父の前まで歩み寄った。神父は暫く静かに祈りを捧げた。すると、徐に顔を上げ、祭壇の隣の石碑を指差した。


「貴方の鑑定は終わったよ。そこの石碑で確認してごらん」


 神父は優しい口調でノイに語り掛けた。ノイはその石碑に近寄って、浮き上がった文字を読んだ。


「う~ん? 『大魔導士』って書いてあるね。これって凄いの?」


「『大魔導士』か・・・・・・・・・ だ、だ、『大魔導士』いぃぃぃぃぃ?!」


 この街の住人の驚き方は一辺通りなのかとノイは心の中で呆れた。ノイはそんな神父を無視してアルに訊ねた。


「『大魔導士』って凄いの? アル君?」


「そうだなぁ。『魔法使い』の次の戦闘職と言われているのが、『魔道士』で、その次が『大魔導士』だから凄いと思うよ」


「そうなんだ・・・・・・・・・ アル君が凄いって言うなら凄いんだね♪」


 ノイ自身の職業加護が『大魔導士』に変化している事よりもアルに褒められた事の方が嬉しかった。一方、アルはノイが既に超音波魔法という、今まで見た事も聞いた事も無い魔法を使えるのを知っている時点で、ノイが『大魔導士』であったとしてもさほど驚かなかった。


「じゃ、次はアル君ね!」


 呆気に取られている神父を他所に、今度はアルが祭壇の前に立つ。我に返ったその神父は動揺しながらも、静かに祈りを捧げた。そして石碑にノイの時と同様に文字が浮かび上がった。


「どれどれ? ふむ、アル君は『竜騎士』みたいだよ!」


 ノイがその石碑の文字を読み、アルに伝えた。アルはその『竜騎士』という職業加護に聞き覚えが無かった。


「これってもしかして、地竜の加護の所為なのか?」


「きっとそうだよ! 凄いね『竜騎士』だって! 格好いい・・・・・・・・・」


 ノイは『竜騎士』という言葉の響きに感動していた。アルはその場はとりあえず納得したが、疑問は尽きない。


 二人はそのまま『イル・サンサーナ神殿』を後にした。残された神父はその場に呆然と立ち尽くし、開いた口が塞がらなかった。





 🔶






 『イル・サンサーナ神殿』を出たアルとノイはその足ですぐに冒険者ギルドへ向かった。受付にはいつも通りゴッツがおり、アルはゴッツに話し掛けた。


「こんにちは。ゴッツ。 今日は火水土竜ひみずもぐら以外の魔物の討伐依頼を受けたいんだが、何か良いのはないか?なるべく火水土竜ひみずもぐらよりも強い魔物がいい」


「おう、アルか! そうだな〜、そういえば、先日、『グレグラ火山』の山頂付近の洞窟で溶岩蜥蜴ラージサラマンダーが見つかったって報告があった。かなり強い魔物だから水晶巨像クリスタルゴーレムに致命傷を与えたアルとノイにお願いしても問題ないが、流石に二人ではこの依頼を受けさすのは難しい。他にパーティーメンバーの宛とかはあるか?」


 ゴッツは少し困惑気味にアルとノイに訊ねた。溶岩蜥蜴ラージサラマンダー火炎蜥蜴サラマンダーの上位種にあたり、体躯も一回り大きく、吹く火炎もより強力であった。並の冒険者パーティーでは太刀打ち出来ないであろう。


「いや〜、すまないが、無いな。この街には他に溶岩蜥蜴ラージサラマンダーを倒せそうな冒険者はいないのか?」


「う〜ん。いない事はないが、そいつらはそいつらでパーティーを組んでいるし、今は他の厄介な魔物を相手にしているから、溶岩蜥蜴ラージサラマンダーまで手が回らないんだ・・・・・・・・」


 アルとゴッツが考えあぐねいていると、アルの後ろから声が聞こえた。


「なら、ワタシを君のパーティに入れてくれない?」


 アルは声がする方に振り返ると、そこには黒い装束に身を包んだ、黒髪の美少女がいた。後ろ髪は腰の手前まで伸びており、非常に艷やかである。脇には刀を帯刀しており、一応冒険者である事が窺い知れる。


「名はツクヨ。どうかしら? ワタシこう見えてもそこそこ強いわよ?」


 ツクヨと名乗ったその黒髪美少女は妖艶にアルへ微笑んだ。それを見た周りの男冒険者達がニヤついた笑みを浮かべ、鼻の下が伸びていた。嫉妬の眼差しも混ざっていた。


 ノイは焦る様にアルとツクヨの間に体を割って入れた。


「えーっと、ツ、ツクヨさん? 私とアル君だけで、じゅ、十分だから、だ、大丈夫だよ?」


「あら? 盗み聞きして申し訳ないけど、そこの受付の男性がアナタ達二人パーティーだと溶岩蜥蜴ラージサラマンダーの討伐依頼の受注は難しいって言ってなかった?」


「え、えーっと、そ、そうだったっけ?き、聞き間違いじゃ、な、ないかな〜?」


 ノイの目がキョロキョロ泳いでいる。アルはいつもハキハキしているノイには珍しく歯切れが悪い事が気になったが、ノイとツクヨの話し合いを他所に、ゴッツに小声で喋り掛けた。


「なぁ、ゴッツ。あのツクヨって冒険者の実力は知ってるか?」


「いや、詳しくは分からない。俺の記憶が正しければ、あの女がこの街に来たのはここ最近だ。過去の冒険者記録によれば中堅以上の実力はありそうだが、この街では一回も依頼を受けていないはずだ。なので、詳しい実力は分からん・・・・・・・・」


 ゴッツは少し申し訳無さそう表情を浮かべる。アルは視線をノイとツクヨに戻した。


「と、とにかく、私とアル君だけで十分なの!」


「じゃ、そのアル君に聞きなさいよ。アナタじゃ話にならないわ。それとももしかしてワタシに嫉妬でもしているのかしら?」


「な、な、な、?!」


「そこの男の子が余程気になのね。女のワタシがパーティーに加われば、取られると思っていのかしら?」


「べ、べ、べ、別に、す、す、好きじゃ―――――っ」


 ノイが言葉を途中で詰まらせ、アルの方に視線を移した。ノイの顔が『グレグラ火山』のマグマの様に真っ赤になっていた。


「アルでいいのかしら? どう? パーティー加入の件」


 ツクヨはそんなノイを無視してアルに話しかけた。


「え、あぁ、 俺は構わないが・・・・・・・・・」


 アルも同じく言い淀み、ノイを見る。ノイの顔は未だに噴火中であった。ノイは何か言いたいのか口をパクパクして、開いては閉じを繰り返している。


(ノイはこの女の子の何が気に入らないんだろ? 見た感じのみだけど、強そうだし問題ないと思うんだけど・・・・・・・・)


「なぁ、ノイ。溶岩蜥蜴ラージサラマンダーは強い魔物みたいだし、前衛が増える事はパーティー全体の安定にも繋がるし、彼女を入れたいんだが・・・・・・・・・」


「えっ? あ、う、うん、 アル君はあの人の事どう思う?」


「ん? 強そうだと思うよ。俺は盾持ちで防御特化に対して、彼女は珍しい刀っていう武器を持ってて、攻撃に特化してるっぽいから相性も良いと思う」


「そ、そういう事じゃないんだけど・・・・・・・・」


「ふふふ、そのアル君って子とワタシは相性が良いみたいよ?」


 ツクヨは挑発的な視線と表情をノイに向ける。それに大声で反応するノイ。


「うなー、それは戦闘での事でしょ? 変な言い方しないで!」


「ノイ。ちょっと落ち着けって。何か変だぞ」


「五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い。もう、勝手にすればいいじゃん!」


 ノイは顔が絶賛噴火中のまま、子供が駄々をこねる様に冒険者ギルドを出て行った。アルは大きく溜息をつく。


「ふふ、可愛いわね、あの子。 まぁ、アナタ―――――アルが構わないなら、加入させて」


「すまないなぁ、恥ずかしい所を見せてしまって。それじゃ、改めてよろしく。俺はアル、さっきの女の子がノイだ。 ツクヨで良かったかな?」


「ええ、早速今から行くの?」


「いや、すまないが、ちょっと準備をさせてくれ。それとノイを宥めないいけないし・・・・・・・・」


「あぁ、そうだったわね。じゃ明日の早朝でいいかしら?」


「それで頼む。後、あまりノイを揶揄わないでくれ」


「あら、アル。アナタかなり鈍感なのね。これじゃ、ノイに同情しちゃうわ」


「何を言っている?」


 アルはツクヨの言葉に眉根を寄せた。が、ノイの事が心配になりすぐに後を追った。ツクヨはそんなアルの背中を不敵な笑みを浮かべつつ見つめた。






 

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