第17話 伝説を受け継ぐ者

 アルとノイは『ザラス鍛冶店』を後にして、『火地かちの宿』へ帰ろうとしたが、火水土竜ヒミズモグラの討伐報告を冒険者ギルドにしてない事を思いだし、現在ゴッツと受付で話をしていた。


「確かに、火水土竜ヒミズモグラの爪を確認した。これらもそのまま買い取りでいいのか?」


「あぁ、頼む」


「なら、これが今回の報酬だ。受け取れ!」


 ゴッツは金銭の入った布袋をアルへ渡した。そこへノイが大きな声を上げた。


「あーーーっ! 忘れてた!! 火水土竜ヒミズモグラと一緒に受けてた『最高位の魔法石シュプリームジュエル』の依頼も達成したんだ!!」


「達成したんだって、何言ってるんだ?ノイ?『最高位の魔法石シュプリームジュエル』なんて納品してないだろ?」


「えっ? あぁ、直接『ザラス鍛冶店』に持って行っちゃったの」


「はぁ、あんまりそんなウソ付くもんじゃないぞ? それにこの前言い忘れてたが、報酬はあの店に飾られている盾だ。『最高位の魔法石シュプリームジュエル』とじゃ割に合わないぞ?」


「ふ~ん、ゴッツさんも見る目無いんだねぇ。あの盾は相当凄いよ?」


「はい、はい。分かった、分かった」


 ゴッツは全然ノイの話を信じていなかったが、ノイはもうあまり気にしなかった。自分が信用している人が信じてくれているからそれで充分であった。


「ノイ! ちょっとだけ資料室に寄っていいか?」


「うん?別にいいけど、どうしたの?アル君」


「あの鬼火プラズマのカイトシールドに用いられた魔物の素材が気になってな。その魔物の資料があるか分からないが見てみたいんだ」


 アルは『ザラス鍛冶店』のジョーに鬼火プラズマのカイトシールドに使われた魔物の素材を聞いていた。それは『鬼火小鬼プラズマゴブリン』と言う魔物らしい。アルは早速資料室で過去の文献を漁った。


「あった」


 アルは資料を広げる。そこには『鬼火小鬼プラズマゴブリン』の詳細とは言い難いが少し情報が載っていた。『鬼火小鬼プラズマゴブリン』は小鬼ゴブリンが変化した上位種で、どのような条件で変化するかは定かではない。名前の由来も分からないが、白い火の玉を扱う事が出来るらしく、その白い火の玉はこの世にあるすべて物を燃やす事が出来るらしい。


「結構恐ろしい魔物みたいだね。アル君」


「あぁ、そうだな。そんな魔物の素材をどうやって手に入れたのかも謎だな」


 ノイは珍しくアルと一緒にその資料を読んだ。アルは一通り資料を読み終え、その資料を本棚へ返した。用が済んだアルとノイは冒険者ギルドを出ようとした所で、ゴッツに引き止められた。


「すまん、すまん。お前達に用があるのをすっかり忘れていた」


「ん? 用事? 何だ?」


「用事と言うより渡したい物がある」


 ゴッツがそう言うと、受付の後ろの金庫から大き目の布袋を取り出し、受付のテーブルに豪快に置いた。中から金属がかち合う音が響き渡った。


「これはロフィートの街のノシーラから送られてきた物だ。受け取れ!!」


「はぁ? ノシーラさんが? 意味が分からない。説明してくれ。これの中身は金か?」


 まったく説明しないゴッツにアルは呆れ口調で問い詰めた。ゴッツは豪快に笑いながら説明しだした。


「あぁ、何でもある冒険者がフクロスト山脈の麓の森の水晶巨象クリスタルゴーレムを討伐したらしいんだよ。それから取れた水晶クリスタルを売って出来た金の半分をお前達にって送って来たんだ」


「だからって何で俺達にその半分を渡してきた訳だ?」


「お前達、その水晶巨象クリスタルゴーレムに致命傷を与えたんだろ?だから、簡単に討伐出来たそうだぞ? お前達見かけによらず凄いんだなぁ ガハハハ!」


「―――――あっ!」


 アルは記憶の奥底を手繰り寄せ、何とか思い出した。ここ数日忙しかったからついこの間の事ですら昔の事に感じた。ノイが超音波魔法で尻もちをつかせた水晶巨象クリスタルゴーレムの事であろう。アルは若干そのゴッツの話が信じられなかった。


「そんなに弱っていたのかあの水晶巨象クリスタルゴーレムは・・・・・・・・・」


「みたいだね、アル君。正直あの時は必死すぎて、討伐するって発想なかったもんね」


「そうだな。何か腑に落ちないが、これで金銭的な余裕が出来たなあ」


「うん、うん。じゃ、鬼火プラズマのカイトシールドが出来るまで温泉に浸かりながら、のんびりしない?」


「そうだな。地竜の事でちょっと疲れたし、俺も少しのんびりしたい気分だ」


「ヤッター。じゃ、明日は外湯巡りしよ? 私意外に色々調べてたんだよ?」


「そ、そうなのか? じゃ、ノイに任せて、付いて行こうかな、ハハハ」


「うん、いいよ。でも何でアル君がその笑い方するの?」


 アルは温泉の街『プベツイン』に来る前に下調べをノイに任せっきりで、思った以上に物価が高く、困った事を思い出した。その為、再びノイに予定を丸投げするのを少し躊躇ったが、休日の予定ぐらいいいだろうと楽観した。


 ノイにとってはいつも忙しくしているアルと休日を過ごせるのは特別な事に感じた。





 🔶





 翌朝、アルとノイはいつも通り『火地かちの宿』で朝食を食べ、街へ繰り出していた。アルはノイに連れられ一軒の外湯専用の温泉施設に来ていた。建物の上から突き出している煙突から出る煙が何処かこれからの事を暗示している様だった。


「ここの温泉はねぇ、紫色のお湯に、頭が良くなる効能があるらしいよ!」


「いや、色は良いとして、その効能は本当なのか?」


「『火地かちの宿』のウォタッさんが言ってたよ?」


「あの人か・・・・・・・・・ ちょっと噂好き過ぎて、あんまり信用ならないんだよなぁ・・・・・・・・」


「そう? まぁ、アル君は元から頭良いから、嘘でもいいんじゃない?」


「その理屈はどうなんだ? ノイ・・・・・・・・・・」


「とにかく、入ってのんびりしよう!! ここの温泉卵も紫色らしいから楽しみ!」


 アルとノイはその後も色々な温泉を巡り、美味しい物を食べ歩いた。最初は渋々付き合っていた節もあったアルであったが、無邪気に楽しむノイを見て、一緒にいる内に心からノイとの休日を楽しんだ。


(アル君。いつもありがとう・・・・・・・・・)


 そんなアルを見て、ノイは小さく心の中で呟いた。





 🔶





 温泉に浸かりながらまったりとした時間を過ごしたり、たまに魔物討伐を行ったりしている内に数日が過ぎていた。そんなある日、アルとノイは『火地かちの宿』のウォタッに呼び止められた。


「アル、ノイ! 『ザラス鍛冶店』のジョーから今日中に店に来てくれって連絡が来ているよ、二人揃って来店するようにだって」


 アルとノイはお互い顔を見合わせて、ニヤッと笑った。二人共浮足立って、すぐに『火地かちの宿』を飛び出し、『ザラス鍛冶店』へ向かった。



 『ザラス鍛冶店』に着いたアルとノイは店の入り口に『本日休業』の文字が目に入ってきた。ノイは溜息混じりに小さく呟いた。


「はぁ~、どうせお客さんなんて誰も来ないのに、余計な事して・・・・・・・・・」


「まぁ、ジョー達も俺達に気を遣ってくれたのかもしれないし、いいじゃないか、ノイ」


 ノイの不満がイマイチ分からないアルであったが、気にせずそのまま店内へと入っていった。


「ジョー! サラーシャ!! アルとノイだ! 完成したのか?」


 大きな声でジョー達を呼ぶアル。その声に反応して、店奥からサラーシャが出てきた。


「来たわね、早速見て頂戴」


 そう言うと、サラーシャはアルとノイを店奥の鍛冶工房へ案内した。そこには製作途中と思われる武器や防具。金属インゴットや、鍛冶道具が乱雑に置かれていた。火を使うためか室内は酷く乾燥していた。


「おう! よく来たな! 待っていたぞ!」


 そして、その鍛冶工房の奥に椅子に座るジョーが居た。ジョーの目の前には壁に掛けられた例の盾があった。


「へぇ~、これが完成した鬼火プラズマのカイトシールドなんだ。見た目は変わってないねぇ・・・・・・・・・・」


 ノイが感嘆し、率直な意見を述べた。


「あぁ、そうだ。しかし、中身は天と地の差だ。でもなぁ・・・・・・・・・」


 折角完成した盾を前に、落胆の表情を見せるジョーに、アルとノイはそれを疑問に感じた。疑問の答えをサラーシャが代わりに答えた。


「実はその盾の性能が高すぎて素手で装備出来ないのよ。地竜の魔法石の魔力量の高さと、それに見合った性能の盾が合わさって、とてもじゃないけど並の冒険者では装備出来ないわ」


「何? そ、そんなに凄いのか?」


 アルが驚嘆した。アルはそんな魔法の装備など聞いたことが無かったからだ。どれだけ性能が良くても、良過ぎて装備出来ないなんてあり得なかった。


「私達も魔法の手袋で何とか持つ事が出来るけど、長時間は無理なの。だから、これをあなた達に渡す事は出来ないわ」


 サラーシャが酷く残念そうに告げる。しかし―――――


「えっ? なんで? アル君なら装備出来るよ」


 ノイは何の疑いも持っていないといった面持ちで言う。それを聞いたジョーとサラーシャがノイのあまりに当然と言った物言いに何処か拍子抜けしたが、納得など出来ない。


「な、なぁ、ノイ。 何でアルなら装備出来るって思うんだ?」


「だから、何言ってるの? だってアル君だもん!」


 会話に為らないと思ったジョーはアルに訊ねてみる事にした。


「ノイがああ言ってるが、アルはどう思うんだ?」


「う~ん。こういう時のノイはちょっと常識では測れないんだよなぁ~。だから、理論的には何とも言えないけど、俺はノイを信じるよ」


「マジか・・・・・・・・・・」


「まぁ、とりあえず、持ってみたらいいよ、アル。それで全て分かるから」


 サラーシャも諦めたのかアルに完成した鬼火プラズマのカイトシールドを装備するように促す。アルはゆっくりと鬼火プラズマのカイトシールドが掛けられている壁に向かう。鬼火プラズマのカイトシールドは近づく程にその圧倒的な存在感を感じることが出来る。


 アルは額に汗を掻くのを感じながら、ゆっくりではあるが、しっかりと鬼火プラズマのカイトシールドを手に取り、装備した。


「「―――――えっ?」」


 ジョーとサラーシャは鬼火プラズマのカイトシールドを装備したアルに見惚れた。それはまるで初めからアルの為に作られたと言ってもいい一体感があった。まさに渾然一体。その盾に含まれているモノ全てがアルと一体化していた。


「だから言ったでしょ? アル君なら装備出来るって!」


「い、いや、すまん。信じてやれなくて。しかし、未だに信じられん・・・・・・・・」


「えぇ。ジョー。もしかして私達、伝説の瞬間に立ち会ったんじゃないかしら?」


「か、かもしれん。アルの職業加護は『上級戦士』だったりするのか?」


「いや、俺はただの『戦士』だ」


 さらにジョーとサラーシャは驚愕した。もう吃驚し過ぎて一々全てに反応するに疲れた。


「い、一回、『イル・サンサーナ神殿』で職業加護をもう一回鑑定してもらえ! もしかしたら変化しているかもしれんぞ」


「そうか、分かった」


 ジョーは力なくアルにそう告げた。実際、職業加護はその人の成長具合によって変化する。アルとノイは最初に職業加護を授かってから一回も再鑑定はしてもらっていなかった。


「それにしてもこの鬼火プラズマのカイトシールドは凄い。今なら何でも出来そうな万能感を感じる」


「うん、うん。アル君良く似合ってるよ。私の見立て通り♪」


 アルとノイは完成された鬼火プラズマのカイトシールドに十二分に満足した。


 この瞬間、伝説と呼ばれても可笑しくなかった鍛冶師が夢半ばで完成出来なかった伝説の魔法の盾をその息子とその幼馴染が引き継ぎ完成させ、それをアルが受け継いだ。しかし、伝説とは何かを成して語り継がれるモノ。この盾とアルとノイの伝説はまだ始まったばかりである。



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