第16話 伝説の鍛冶師

 

 職業加護『錬金術師』。『魔法使い』からの派生、進化した職業加護だと言われている。『魔法使い』が戦闘に特化しがちなのに対して、『錬金術師』は物作りに特化している。攻撃魔法や補助魔法等も使える為、魔物との戦いも一応熟せる。


 主に魔物の素材、特に生活水準向上素材を用いて魔法アイテムなどを製作するのが得意だ。稀に魔法武器や魔法防具などを『鍛冶師』と協力して製作したりする事もあり、素材の鑑定やアイテムの解呪なども行える。


『錬金術師』とは多才な上に、人々の生活と切っても切り離せない関係である。


 アルとノイは『グレグラ火山』の地竜リュドウグラの祠から温泉の街『プベツイン』へ帰還し、真っ先に『ノクターン魔法店』を訪れていた。温泉の街『プベツイン』では他にも魔法店は幾つか存在するが、ノイのいつもの勘を頼りに『ノクターン魔法店』で先ほど地竜リュドウグラから譲り受けた魔法石を鑑定してもらう事にした。


「すいませ~ん。ちょっと魔法石の鑑定をお願したのだけど・・・・・・・・・」


 『ノクターン魔法店』はそこまで大きな店ではなかったが、客がそこそこ入っており、女店主は忙しそうにしていた。


「ちょっと待ってね! 今他のお客さんの用事があるから! 名前だけ聞かせてくれる?」


「いいよ。私はノイで、こっちの彼がアル君!」


「ノイちゃんとアルね、順番に呼ぶから待っててね!」


 アルとノイは大人しくその女店主に呼ばれるまで店内で待つことにした。ノイは店内の魔法アイテムに目を輝かせながら商品を物色している。アルは先ほどの地竜リュドウグラの言葉を思い出していた。


(何なんだ? 地竜の加護って? 俺がそれを受け取ったのか? 訳が分からない。実際体に異変は感じられないけど・・・・・・・・・ それにあの地竜、厄災が近づいているって言ってたけど、それもどういう事だ? ノイは地竜の話を一方的に聞くのみで、質問してないからなあぁ~。 ノイはその意味を理解しているのだろうか? あぁぁぁ、頭が混乱する!!!)


 アルは考えが行き詰まり、独り善がっている。すると、ここの女店主がノイに声を掛けた。


「おまたせ、それで用って言うのは鑑定でよかったっけ?」


「うん。この魔法石を鑑定してほしいの!」


 ノイは懐から地竜リュドウグライから貰った黄色い魔法石を取り出し、その女店主に見せた。


「これ、凄い魔力を感じるわねぇ。とりあえず、鑑定しましょう。ちょっと貸してね」


 ノイがその女店主に魔法石を手渡す。大きく息を吸い込み、その女店主が呪文を唱えた。


鑑定アナライズ!!」


 呪文を唱え終わっても、特に魔法石や周辺に異変はない。しかし、その女店主がワナワナ震え始めた。


「こ、こ、これ・・・・・・・・・ 地竜の魔法石・・・・・・・・・ えっーと、私何を言ってるのかな? 地竜ね、地竜。―――――ち、ち、地竜うぅぅぅぅぅっ!!! はぁ? えっ? はぁ?」


 ノイは呆然としているその女店主の掌の上にある地竜の魔法石を取ると、そそくさと店内を出ようとした。


「ありがとう、これお代ね! じゃ!」


「ちょ、ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇ!!! 何が「じゃ!」よ!!! ち、地竜の魔法石って、そんなの何処で手に入れたんのよ? で、で、伝説級の代物よ!!!」


「何処って、地竜から貰ったの」


「地竜から貰ったのねぇ、なるほど、なるほど。って信じれるかぁぁぁぁ!!! お前は地竜と友達か!!!」


「もう、五月蠅いなぁ。別に信じてもらう必要なし、まだ他に用があるから私達は行くね」


「待て、待ってくれ。その魔法石をどうするつもりなんだ?」


「えぇー、言う必要ある? ―――――まぁ、いいか。えーっと、ある鍛冶師さんに渡して魔法の盾を完成させてもらうの」


「ある鍛冶師? 魔法の盾? ―――――っもしかして『ザラス鍛冶店』?」


「あれ?お姉さん知ってるの? 確かそんな名前だったと思う」


「やっぱり・・・・・・・・・ よし、決めた。私も付いて行くわ。もう店じまいよ」


「えっ?―――――まぁ、別にいいけど、お姉さん名前は?」


「私はサラーシャ。その『ザラス鍛冶店』とはちょっと縁があってね。それにその魔法の盾を本当に完成させるなら私の力もいるだろうしね!」


「??? ふ~ん、何だかよく分からないけど、分かった」


 サラーシャは急用が出来たと店を他の売り子達に任せ、『ノクターン魔法店』を後にした。アルは完全に空気と化していた。





 🔶





 職業加護『鍛冶師』。『戦士』からの派生、進化した職業加護と言われている。『戦士』はその名の通り、戦に生きる者の事を言うが、『鍛冶師』はその『戦士』達を支える武器、防具などの物作りに特化している。


 魔力を有する『鍛冶師』は魔法の武器、防具を製作する事が出来るが、その存在は稀で貴重である。加えて、魔法石を用いる場合、『錬金術師』の助けも必要とする。製作工程が大変故に、その性能は優れており、値段も高価に取引されている。各国は幾つかの上質な魔法の武器か防具を所有している。逆に言えば、それぐらい貴重な物で一般の者が持つ事などほぼ無い。


 アルとノイとサラーシャは『ザラス鍛冶店』の前まで来ていた。相変わらず綺麗とは言えない外観をしており、店内には一人も客が居ない。


「おーい、ジョー!! 『最高位の魔法石シュプリームジュエル』を持ってきたよ!!」


 ノイが地竜の魔法石を頭上高く掲げながら、ジョーを呼んだ。店奥からジョーが顔を出す。


「はぁ? 嘘付け!! お前みたいな小娘が手に入れられる訳ないって言っただろ!! 冷やかしなら帰れ!!!」


 ノイとジョーのやり取りに、サラーシャが横から口を挟んだ。


「その子の言っている事は本当よ!―――――ジョー、久しぶりね」


「なっ!? サ、サラ?! どうして此処に? それにどうしてコイツと?」


「その子が私の店に来て、その魔法石を私が鑑定したのよ。それは間違いなく『最高位の魔法石シュプリームジュエル』に相当する地竜の魔法石よ」


 サラーシャはノイが掲げている魔法石を指差し、説明した。


「えっ? マジか?! 地竜を本当に見つけたのか?」


「うん。そうだよ。私がこの魔法石を探している事も知ってたみたい」


「ジョー、あなたいやに簡単に信じるのねぇ。ノイの言っている事を」


「あぁ、実は俺の親父が地竜に会った事があると昔ほざいていたんだ」


 ジョーは一瞬悲しそうな表情を見せる。


「えっ、ジョー。前は誰も地竜を見てないって言ってなかった?」


「親父は地竜に会ったと言っていたが、何も証拠が無かった。それで街の人達は親父を嘘つき呼ばわりして、俺はそれが幼心に恥ずかしく、今でも他人にはこの話はしねぇ・・・・・・・・」


「じゃ、親父さんの言っていたことは本当だよ! 私もそこにいるアル君も実際に見たからね」


 空気と化していたアルが一瞬呼ばれて肩をビクっとさせたが、すぐにまた空気になった。


「ノイだっけ? ありがとう。それに本当に『最高位の魔法石シュプリームジュエル』を持ってくるなんて思わなかった。すまん」


「お礼よりも、あの鬼火プラズマのカイトシールドを完成させてよ! 絶対にアル君に似合うんだから!!」


「ジョー、私にもあの盾を見せて。ちょっと気になる事があるから」


「わ、分かった・・・・・・・・・」


 ジョーは店先のショーウインドーから鬼火プラズマのカイトシールドを取り出して、サラーシャに渡した。


「ジョー、確かこの盾って、あなたの親父さんが作ったのよね?」


「あぁ、そうだ」


「じゃ、何で『最高位の魔法石シュプリームジュエル』しか駄目って理由は知っている?」


「いや、ただ親父にそう言われただけだ」


「そう・・・・・・・・・ 恐らく、『最高位の魔法石シュプリームジュエル』じゃないとこの盾の強力な性能に耐えられないのよ。他の、例えば『高位の魔法石グレータージュエル』だと耐えきれずに砕けるんだと思うわ。」


「何!? それほどか・・・・・・・・・」


「えぇ、ジョー、あなたこれを一人で完成させられると思う? あたなまだ職業加護『戦士』のままなの?」


「えっ? ジョー。『鍛冶師』じゃないの?」


 ノイは驚きの口調と共にジョーを見た。


「ぐっ、そ、そうだ。まだ『戦士』のままだ。でも鍛冶は出来る!」


「はぁ~、そんな事だろうと思ったわ。よし! 私にも手伝わせてよ。初めからそのつもりだったし。それにあなたの親父さんには返しきれない恩もあるしね」


「えっ? あぁ、助かるよ。サラ・・・・・・・・・」


 こうしてジョーとサラーシャで鬼火プラズマのカイトシールドを完成させる為、作業に入った。完成には数日掛かる為、アルとノイは『ザラス鍛冶店』を後にした。ジョーはノイに泊っている宿屋を尋ね、完成したら『火地かちの宿』に知らせる約束をした。


「あなたの親父さんは天才ね。伝説の鍛冶師って呼ばれても不思議じゃないわ」


「あぁ、今になれば分かる。それを俺とサラで伝説を引き継ぐんだ!!」


 ジョーとサラーシャは今まで培った技術をフル活用し、全力で鬼火プラズマのカイトシールドと向き合った。『ザラス鍛冶店』内はかつてないほどの熱気に包まれた。

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