第13話 最高位の魔法石を求めて

 

 火水土竜ヒミズモグラは『グレグラ火山』に多く生息している魔物で、火属性と水属性の二つの属性を有する珍しい魔物である。その為、火属性の弱点属性である水属性は効きづらく、また、水属性の弱点属性である雷属性も効きにくい。


 そう言った理由から火水土竜ヒミズモグラは特に『魔法使い』から敬遠されがちである。脳筋である『戦士』などは問題なく戦える。


 アルは冒険者ギルドの資料室にある火水土竜ヒミズモグラに関する資料を読み進めていた。この男、事前準備は決して怠らない。


(ふむ・・・・・・・・・ 火水土竜ヒミズモグラは俺とノイなら問題ないだろう)


 アルは火水土竜ヒミズモグラ討伐に関してそう結論付けた。『戦士』であるアルは問題なく戦えるとして、『魔法使い』であるノイは本来であれば苦戦するであろうが、彼女はかなり特殊な『超音波魔法』と言う世界五大属性に属さない魔法が使える。正直、アル自身もノイが使った『超音波魔法』など今まで聞いたことがなかった。それにノイが元から使えた風属性魔法も世界五大属性に属していない。


 世界五大属性とは、火、氷、地、雷、水の五属性の事を指す。それぞれ有利属性と弱点属性の相関関係にある。風属性に関しては何故かこの五大属性に属していない。『魔法使い』ではないアルには到底分からない事であった。文献等の資料にも詳しく載っていない。


 火水土竜ヒミズモグラに関する資料を閉じ、アルは一息ついた。と同時に重要な事を思い出す。


(しまった!! ノイの事をほったらかしにしてた・・・・・・・・)


 アルがゴッツから地図を受け取ってすぐに資料室に向かう際に、ノイに何の断りもしていなかった事に気が付いた。


(ヤバイ・・・・・・・・ ノイのヤツ、かなり怒ってるかも・・・・・・・・)


 アルは一人置き去りにされたノイの事を思い、冷や汗が止まらなかった。アルはすぐにその資料室を出て、ノイを探した。


「すまん、ゴッツ! ノイが何処に行ったか知らないか?」


「いや、知らんな。なんだちゃんと約束等してなかったのか?」


「うぅ・・・・・・・・ 金が無いのに焦って、何も言わずに資料室に籠ってしまった」


「いかんな、それじゃ。女の子は大事にしなきゃいけんぞ?」


 アルはゴッツの言い分に返す言葉がなかった。しかし、この冒険者ギルドでうだうだしていても仕方なかった。アルはとりあえず冒険者ギルドを出て、ノイを探しに行こうとした、


 その時、


「ノイ!?」


 ノイが冒険者ギルドの扉を開けて中に入ってきたのだ。何故か彼女の顔はニコニコしている。しかし、アルはそのノイの笑顔が逆に怖かった。


「アル君、どうしたの? そんな焦った顔して?」


「えっ? い、いや、何でもない・・・・・・・・」


「ふ~ん、変なアル君。それよりも、ゴッツさん。ちょっとギルドの依頼書を見たいんだけど、いい?」


「あぁ、いいぜ。ちょっと待ってなっ! よいしょ、これが依頼書だ」


 ゴッツは大量にある依頼書を横の机に置いた。ノイはゴッツに感謝を述べ、その依頼書を一枚一枚捲っていった。アルは普段依頼者なんて見ないノイに少し困惑していた。


「え~っと、何してるの?ノイ?」


「何って、依頼書を見てるの! アル君はちょっと黙っててくれるかな!!」


「う、うん・・・・・・・・」


 いつになく真剣なノイにアルはたじろいだ。それにさっきの件で後ろめたい気持ちもあり、アルはそのまま押し黙った。依頼書の束はかなりの数があるが、ノイはそれらを隈なく素早く目を通した。


 そして、一枚の依頼書を引き抜いた。それは見るからに年季が入っていそうで、ボロボロであった。ノイはそれをゴッツに手渡した。


「ゴッツさん! これも一緒に受けたいんだけど!」


「どれどれ・・・・・・・・・ えっ? こ、これを受けたい、の、か・・・・・・・・・・?」


「そうだよ! 依頼期限は無しって書いてあるし、いいでしょ?」


 ノイは満面の笑みでゴッツにお願いする。ゴッツにとしては特に断る理由が無いのが逆に困った。


「ゴッツ、何で困った顔をしているんだ? その依頼ってのはどういった内容だ?」


「あぁ、そうだな・・・・・・・・・・ これはな、アル。『ザラス鍛冶店』の前店主のジョーラットが依頼したもので、『最高位の魔法石シュプリームジュエル』の納品依頼だ。属性は特に問わず、期限も設けていない。『最高位の魔法石シュプリームジュエル』なんてそう易々と手に入るものじゃない!だから、もう長らく誰も依頼を受けていないものだ。今はジョーラットの息子が亡くなった先代から引き継いで店をやってるし、納品先もその息子になっている。」


「そうなんだ・・・・・・・・・ お父さん亡くなってるんだ・・・・・・・・・・」


 ノイは小さく呟いた。誰にも聞こえない声で。


「どうした、ノイ? 何か言ったか?」


「な、何でもない。とりあえず、それ受けるからね。ゴッツさん」


「あぁ、期限を設けてないから断る理由もないしな。―――――まぁ、期待せずに探してみろ!」


 アルとノイは冒険者ギルドを後にして、明日からの火水土竜ヒミズモグラの討伐依頼の準備の為に街へ出掛けた。


「あっ、しまった! ノイにあの依頼の達成報酬を言ってなかった・・・・・・・・・・ まぁ、いいか。 どうせ見つけられやしない」


 ゴッツはノイに渡した大量の依頼書を片付けながら大きな独り言を呟いた。





 🔶





 ツクヨは紅白身魚ルビーフィッシュのパスタを一人で食べていた。そのお店は温泉の街『プベツイン』の大通りにある高級そうな一軒だった。


 紅白身魚ルビーフィッシュは『グレグラ火山』の麓にある湖で捕れる一般的な魚の総称である。その湖は傍にある『グレグラ火山』の影響で湖水の温度が高い。その為か、そこに生息している生物達は殆どが赤い色をしている。


 その紅白身魚ルビーフィッシュは鱗が真っ赤で、光沢があり、非常に美しい見た目をしている。しかし、何故か身は普通の白身魚と変わらず、白い。かつ、美味であった。


 魚に限らず、農作物も赤色に育つことが多い。紅玉玉ねぎ、赤長ネギ、鮮血大根など様々だ。因みに、トマトなどの初めから赤い野菜は普通に赤いだけで、特に変わった様子は見られない。


 そんな温泉の街『プベツイン』の名物の1つでもある紅白身魚ルビーフィッシュ料理を食べているにも拘わらず、ツクヨは小さく溜息をついていた。


(退屈ねぇ~)


 ツクヨは脇に差してある妖刀景桜かげざくらを手に入れてからこれまで戦いの日々に身を置いてきた。冒険者になり、魔物を討伐する日々。、人間の相手もした。そんな生活を送っていたツクヨにとって、温泉の街『プベツイン』でのゆっくり、まったりとした時間は凄く退屈に感じられた。


(はぁ~、あまりこの街に長居出来そうにないわねぇ。でも、次に行く宛もないのよねぇ・・・・・・・・・ 何処かのパーティーに入れてもらおうかしら・・・・・・・・・・)


 ツクヨがその高級店のテラス席で退屈そうに、独り心の中で呟いていると、その退屈そうな瞳の端にフードを目深に被った男二人組が大通りを通りすぎたのが映った。ツクヨは思わず口元が緩んだ。


(いい退屈しのぎ発見♪)


 ツクヨは自身が座っていたテーブルに紅白身魚ルビーフィッシュのパスタの代金を置くと、誰にも気づかれずその場から居なくなった。店員はそんな事には気づかず、素早く優雅にツヨクの残した皿を下げた。





 🔶





 ニル大陸有数の山、通称『グレグラ火山』。麓の一周は150キロメートル程もあり、かなり大きい。その長い一周の麓には幾つか山道へ通じる入り口がある。


 アルとノイはその一つである南側の入り口、温泉の街『プベツイン』からすぐの山道を登って、件の火水土竜ヒミズモグラの洞窟まで来ていた。その洞窟の入り口は人が余裕で通れる程の大きさがあり、奥は更に広そうであった。


 いつもの様にアルが先行し、その後をノイが付いて行った。所持金の少なさに焦りがあるアルであるが、魔物討伐に関しては自然と慎重になる。しかし、盾を新調する余裕が無かったので、両刃剣のみ装備している。


 事前の調べで、火水土竜ヒミズモグラは攻撃力の高くない魔物だと下調べは済んでいるアルだが、盾が無いのがどうも不安だ。その為、尚更慎重になった。


 その洞窟を入って程なくすると、すぐに一体の火水土竜ヒミズモグラを発見した。アルが気付いたタイミングでその火水土竜ヒミズモグラもこちらに気付いた。


 火水土竜ヒミズモグラの出方を窺うアルは少しずつ火水土竜ヒミズモグラとの距離を詰めていく。すると、火水土竜ヒミズモグラは様子見が我慢出来なくなったのか、勢い良くアルに向かって、飛び掛かって来た。


「アル君!!」


 ノイの呼びかけが聞こえる。アルはその火水土竜ヒミズモグラの飛び掛かりを余裕を持って体を捻り避けた。


(お、遅い・・・・・・・・・・)


 アルは火水土竜ヒミズモグラの鈍重な攻撃に戸惑いながらも、避け際に、両刃剣を振り下ろした、そして火水土竜ヒミズモグラは簡単に絶命した。


「アル君! 大丈夫?」


 ノイが心配してアルの元へ駆け寄るが、アルとしてはかなり拍子抜けの相手であった。


「うん、全然大丈夫。思ったより弱かった・・・・・・・・・・・」


「そっか。なら良かった。じゃ、素材回収してドンドン討伐して行こ?」


「そうだな。この調子なら金の心配もすぐに解決しそうだな」


 アルは火水土竜ヒミズモグラから出た素材を確認した。土を掘る為のツメが残されていたが、アルはそれの詳しい用途を知らないし、今回の依頼に素材納品は含まれていなかったが、魔物が素材を落とせば、それを冒険者ギルドへ見せれば討伐証明にもなるので、アルはそれらを魔法の素材袋へと入れた。


 アルとノイはその後も順調に火水土竜ヒミズモグラを討伐していった。ノイの出番は殆ど無く、ノイは少し不満そうであったが、超音波魔法で洞窟を破壊されても困るので、アルとしてはそれで良かった。


 ノイは戦闘以外終始辺りをキョロキョロ見ていたが、アルはいつもの事だろうと思い、特に気にしなかった。


 二人は魔法の素材袋が一杯になるまで討伐した所で、街へ帰還した。



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