第10話 暗闇の先は無明
ワタシは時々、例の小屋の少女の夢を見る。
その少女はよく泣いている。
その瞳には一切光が宿っていない。
その少女は何処から来たのだろう。
その少女の両親は何処にいるのだろう。
その少女はその小屋で何をしているのだろう。
その少女は何故泣いているのだろう。
その少女は何時まで泣き続けるのだろう。
その少女はワタシをジッと見つめている。
ワタシもその少女をジッと見つめ返す。
🔶
何故なら、先に逃げたはずのロイが宿屋に戻った形跡が無かったのである。ロイとウィルとライラは同じ宿屋に泊っており、ロイとライラに至っては同じ部屋に泊っていた。それにも拘わらず、部屋には荷物を持ち去った形跡が無かった。
自分達を身代わりにして、逃げたロイに文句の1つでも言いたかったライラとウィルはまったく姿の見せないロイを少し心配した。
「何処行ったのよ、ロイ! もう!!」
「まぁ、まぁ。落ち着いて。ライラ。いないならいないで俺はあんまり会いたくないし・・・・・・・・」
「私だって会いたくて探してるんじゃないわよ!! せめて多少罵ってやらないと気が済まないのよ!!」
「君も大概だったけどねえ・・・・・・・・・」
「ぐっ、それは言わないで。反省してるわ・・・・・・・・」
「それにしても冒険者家業は暫く休業だな。これからどうしようかな・・・・・・・・」
「ねぇ、ウィル? あの
「さぁねぇ、何の事かな?」
「照れなくてもいいのよ! ウィルが本気なら私も考えなくもないよ?」
「いや、本当に照れてるんじゃなくて、今回の事で色々考えさせられたよ。人は見かけじゃ分からないってねえ」
「・・・・・・・・・」
「別にライラが嫌いになった訳じゃない。ただ、俺も色々考える時間が欲しいんだ。ライラが嫌ならパーティーは解散するが?」
「ちょっと待って。解散は待って。今1人になるのはちょっとキツイ・・・・・・・・」
「俺としてはその内他のパーティーに合流するか、メンバーを募集するつもりだから、ライラの好きにすればいい。ただ、裏切るようなことだけはやめてくれよ」
「わ、分かってるわよ。ってか、ウィルってそんな性格だった? 何かよく喋るし、そんな皮肉屋みたいな事あんまり聞いたことなかったけど・・・・・・・・・」
「う~ん。俺にもよく分からない。ただ、今回の件でちょっと何かが吹っ切れたかもね。もう変に気を遣うのはやめようってね」
「そう。まぁ、これからも宜しく。私も心入れ替えてやっていこうと思うから、見捨てないでね?」
「う~ん。まぁ、うん。それよりもツクヨは何処行ったんだろうね。もうこの街を出たのかな・・・・・・・・・」
「―――――私の決意表明よりもツクヨが気になるのかよ・・・・・・・・」
「えっ? 何か言った?」
「何でもない!!」
ライラの呟きはウィルには届いていなかった。二人はとりあえず馴染みの『トーヴ酒処』へ向かった。もしかしたら、ロイが立ち寄った可能性があるからだ。
🔶
ヴァモカナ小国の南の国境付近。人が立ち入らない森奥、山奥に自然の洞窟を拡張した自然の人工要塞が存在した。無機質なその要塞内には無数の正方形の部屋が存在する。その部屋には鉄格子が無数に打ち付けられており、部屋の外と内を完全に隔離していた。
明暗の差で部屋の中ははっきりと外からは見えない。そんな部屋を一望出来る高台に立つ1人の小太りの男が『クロ』から先日の任務の報告を受けていた。
「なるほど。では、彼女はまだ生きているんだねぇ?」
「あぁ、あれはある種の化け物だ。並の事では死なんだろう」
「ふむ、そうか。それより、君の報告で気になる事があるねぇ。私が渡した霊薬を打ち込んだ魔物の事だ」
「それに関しては俺も驚いている。まさか上位種に変化するとはなぁ。変化条件などはまだ冒険者ギルドも把握していないはずだ」
「そうなんだよねぇ。それが本当なら貴重な情報だよ。これは『先生』に知らせないとねぇ」
「・・・・・・・・・」
「それじゃ、これが報酬だよ」
ボアは『クロ』に金銭の入った布袋を差し出した。
「何? 俺は任務を完遂出来ていないぞ?」
「あの女を追い詰めるのは私の趣味だよ? 趣味が継続出来るんだから私には不満はないよ。それに、今回は霊薬の成果が大きいからねぇ。グフフフ」
「初めからそっちが目的か。食えんヤツよ」
「君はただ私の指示に従っていればいいんだよ。ねぇ、『
「その名で一括りにして呼ぶな!」
「フフン。じゃ、これまで通り『君』って呼ぶからねぇ。次の任務依頼が出来るまで適当に待機しといてよぉ」
「分かった。何かあればすぐ呼べ」
『クロ』は吐き捨てるように言うと、闇の中へ消えていった。その人工要塞内の暗闇に満ちた部屋から時折金属が擦れる音が聞こえる。その音を聞くたびにボアは下卑た笑みを浮かべた。。
🔶
城塞都市ツバルの商業区の一画にひと際大きな建物がある。派手な色合いで塗装され、豪華な装飾が所狭しと飾られている。正面玄関の上には巨大な看板が掛かっており『銀の筆魔法店』と書かれていた。
外観からも店内の売り場面積が広いのが窺える。正面玄関の左右から覗ける店内には沢山のお客さんで賑わっている。主に若い女性が多く様に感じる。
そんな女の子御用達の魔法店の店内へツクヨは入っていた。店内の装飾も派手で色鮮やかであった。広い店内にゆとりのあるスペースを保ちつつ、商品棚が並べられていた。そこには見たことも無い魔法アイテムや霊薬などの薬コーナーなどジャンル別に分けられている物もあった。
ツクヨは多種多様で色とりどりの商品には目もくれず、受付へ一直線に向かった。
「いらっしゃい。何の用? お嬢さん♪」
受付に居たのはフリルの付いた可愛らしい服装をした女性が座っていた。
「これを鑑定してほしい。悪い魔法の効果があるなら取り除いてほしい」
ツクヨは懐から
「これって、もしかして
「それを言う必要があるの?」
ツヨクは余計な会話を嫌った。こちらの要件だけ答えて欲しかった。
「やだ~、そんな怒らないでよ~ いいわ、とりあえず、貸してみて。見てみない事には分からないわ~」
ツクヨは
「う~ん。じゃちょっと待ってね。―――――ディスペル!」
「―――――!?」
「はい、終わり。これで装備しても悪い効果は出ずに、単純な身体強化が見込めるわよ。料金は隣で払ってねぇ~」
ツクヨは解呪された
(ちょっと吃驚した。だってあの人普通に受付に座ってるから、ただの売り子かと思ったわ)
ツクヨはその女性の隣の受付で解呪代を払い、店を後にした。帰り際その女性『錬金術師』からの視線を感じ、ツクヨは背中に変な汗をかいた。
『銀の筆魔法店』を後にしたツクヨは目的も無く城塞都市ツバルの大通りを歩いている。街は相変わらずの賑わいで、先日のカニ鍋パーティーの噂を聞きつけた旅人らが街に溢れかえっていた。街の皆に振る舞われたカニ身はもう殆どないだろうが、巨大バサミの外殻はオークションに掛けられる予定であり、それを買い求めに来た商人なども出入りしていた。
オークションに参加する為の準備をする商人達がツクヨの隣を通り過ぎる。その
(今まで散々心の醜い者を見てきたけど、殆どの者が顔も不細工だったのよね・・・・・・・・ だから今回のロイ達にはちょっと期待したんだけど、期待外れね。ウィルがちょっとマシだっただけね)
ツクヨは今回この城塞都市ツバルで仲間になった3人を思い出していた。彼女は仲間に何かを求めているようだ。しかし、彼女は彼らを本当に仲間と思っていたのだろうか・・・・・・・・・
(ロイはもうこの世にはいないから再会する事は無いけど、ライラとウィルは生きていればその内再会する事もあるかもしれない)
(ちょっと色々疲れたし、ライラが言っていた温泉の街に行ってみるのもいいかもしれない)
ツクヨはこの街での総括をし、新たな目的地を定めた時、ツクヨの目の前にスリをしようとする男の手が見えた。男の手は見えない刃に切り飛ばされ、男は悲鳴を上げた。
キャラクター紹介
ツクヨ:職業加護『剣鬼』 隠れステータス【性格】:冷徹残忍
感情に左右されずに、物事を冷静に見通す事が出来る。
その為、一見冷たそうに見られる。
自分の意見を持っており、周囲に流さ難い。
一方で、他人への思いやりが薄く、惨たらしい事を平気で出来る。
あとがき
これにて第二章完です。ここまで読んで頂きありがとうございます。
アルとノイに比べて鬱な主人公でしたが、意外に書きやすかったです。
第三章はアルとノイが再登場します。
目的地があそこなのでどうなる事やら・・・・・・・・
書くのが楽しみです。
第三章も全て書き終えてから投稿する予定ですので、更新が滞るかもしれません。
多分、滞ります。第三章は前二章より長くなる予定ですので。
では、第三章でまたお会いしましょう。
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