37.1話
フレンツと入れ替わりに聖騎士クリストハルトが姿を見せる。
「こちらでしたか、団長殿」
「おや、聖騎士殿かい」
「まずは神学の授業を任せていただいたことに感謝を。話をいただいたときには少々驚きましたが」
「おや、神学ですか?」
「ええ。聖騎士という立場上、私が戦争に参加することはできません。そんな余計な客を抱えてもらっているのですから、せめて何かのお役には立とうかと思いましてね。聞けばこの子たちは孤児で、神の教えもろくに知らないのだとか。ならば聖職者である私が神の教えを広めることに異論はでないでしょう」
異論、とは教会や聖騎士団などの聖職者からのものだろう。
昔からゼナー教会は戦争における武力介入はしないという名目になっており、基本的に教会が保有する武力というのは魔族との戦いに用いられるものだ。
なので聖騎士個人が勝手に戦争参加することはできないという言い分も仕方のないものであろう。
「いくら傭兵とはいえ世間様の常識ぐらいは学んでおいて損はない。なんせ神の教えなんぞとは縁がない孤児だらけだ。うっかり神の像でも壊したら、そいつはコトだからね」
そこまで言ったオーリエールが、にやりと口元を歪めて話を変えた。
「それともガキを使って金儲けをしている輩だとお叱りをうける場面だったかい?」
「教会でもかくまいきれぬ孤児たちを、まがりなりにも救っているのです。私個人としては称えられるべきことだと思いますよ」
戦乱や魔物の襲撃など要因はさまざまだが、親を亡くし行き場を失った孤児というのはコトがおこれば常に発生するものだ。
教会や冒険者ギルド、慈善団体などが孤児を引き取るわけだが、そうしたところで拾われた子はまだ運が良いほうであろう。
何しろ孤児の数が多すぎて遥かに許容量を超えてしまうのだ。
あぶれた者、あるいは救いの手に気づかれなかった不幸なる子供は、食うに困って犯罪者になったり犯罪組織に拾われたり、奴隷商人に捕まることになったり、誰にも拾われず……、とまぁろくな展望は待っていない。
そうなるよりはこの傭兵団はだいぶマシな環境ではあるだろう。
食事は差別なく満足に与えられ、同じ世代の友人に恵まれ、戦えるようになるまで後方で待機する補給隊のほうで訓練を積み、曲がりなりにも人間らしい生活を送れるのだから。
「個人としては、か。教会としてはそうも言えないってことかい?」
「厳密には私どもの聖騎士団と教会は異なる組織ですので、教会側の上の意向まではなんとも。……推測するなら良い顔はしないかと思いますが。現場を知らぬものは本人にとっての理想論の押し付けに終始するものですから」
とはいえ、子供を傭兵として使い金儲けをしている、という批判は当然あるだろう。
それは事実であるし、それも世間の常識というものなのだ。
「言うねえ、気に入ったよ。アンタに任せて正解だったね」
「でも、中には傭兵をやめて教会に行っちゃう子もでてくるんじゃないですか?」
なんとはなしに、カナがそう口にする。
せっかく育てた人材を取られることになるのだが、それは問題ないのだろうか、という疑問だ。
「子供らが信仰に目覚めて聖職に就くならそれはそれで良いことだよ。食いっぱぐれがないし安全だ。傭兵なんぞをやるよりは遥かにマシだろう」
「そういうものですか」
ふむ、とカナは納得したように口にした。
「もちろんカタギの一般市民になるという選択も奨励するよ。ただ、一般市民ってのもアレはアレで難しいものでさ、“生まれ”と“コネ”がなければカタギになるのも一苦労だ。誰も面倒をみてくれず、仕事も与えられず、なんなら異端者のごとく排除されかねない、体のいい奴隷扱いということもありうる。……拾われた組織にそのまま“就職”しちまうやつがほとんどだろうよ。教会なら聖職に、冒険者ギルドなら冒険者に、傭兵団なら傭兵にってわけさ。……ま、多少は“卒業”した子もいるけどね」
語りながら、オーリエールが優しく笑う。
クリストハルトは悲しそうに手のひらを見つめる。
救いたかった者に思いをはせたのか、救えない者がいることを嘆いているのか。
カナは興味深そうに小さく頷くだけだった。
「アンタも、他のことをやりたくなったらいつでも言いに来な。“人”は、自由なんだからね」
オーリエールは、カナをみて、カナのことを目で指してそう言った。
“人”なのだと。
種族は違えどお前も“人類”なのだと、そうした意味をのせて。
少し唖然としたカナは、やがて柔らかく微笑んだ。
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今回は戦いの合間の箸休め的な回です。
戦いの連続というのもアレかなと思ったので。
まだまだ更新していくよーという意味をこめて取り急ぎ1話分書いたのですが
次の更新はしばらく書きためてからにいたしますね。
相変わらず家関係のことで時間もとれませんが少しずつ進めていきたいと思います。
次回からはまた戦争ですね。
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