第34話 王党派領主会議
王都イルド・ガル、その中心部にあるラブーレ宮殿。
きらびやかな宮廷の中にある一室に、ガルフリート王国の領主らのおよそ半数が集結していた。
列席しているのは王党派に属するものたち。
この他に、ギール公爵領ポン・ド・アヴィの大聖堂を管理するミッシェル枢機卿も席に加わっている。
豪勢な部屋の入口の扉が閉められたのちに、宰相のギール公爵が立ち上がり口を開いた。
「忙しい中、良く集まってくれた。早速はじめるとしよう。まず我々の基本方針は言うまでもなく反乱軍への対処であるが、その件について何か意見があれば自由に発言してほしい」
宰相がそう言ってから席に座ると、先ほどから落ち着かない様子であったニケア伯が焦ったように声をあげる。
「さ、宰相殿! カライス伯が血気にはやって勝手に攻め込んで負けてしまったというのは本当ですか!」
「レイモン伯も敵に囲まれ身動きがとれないとか。この場にも来ることができないようで……」
もうひとり、冷静に追随したのはティエンヌ伯だ。
宰相はそれらの不安がる声に対し、静かな様子で答えていく。
「ニケア伯、ティエンヌ伯、心配せずともよい。もとよりカライス伯もレイモン伯も当てにしておらん。彼らは優秀ではあるが位置が悪すぎる。計画においてなんら影響はない」
「そ、そうであればよいのですが……」
不安そうな表情で、ニケア伯が声を落とした。
力のない領主としては、宰相にそう断言されては仕方がない。
続いて、参加者のなかで唯一の女性が手をあげる。
「宰相殿、よろしいでしょうか?」
「プロスコート女侯、どうぞ」
そう呼ばれた女性がひとつ頷いてから言葉をつづけた。
「反乱鎮圧といえば聞こえはいいでしょうが、実態は派閥の異なる領主間での争いです。我々はこの内戦においてどこまでを目指すのかを聞きたい。敵対する全領主を倒すのか、ある程度のところで手打ちとするのか。現実問題として軍を動かすにも資金が必要です。私のところには近くに敵がおりませんし、遠くの領地に出征しろと言われてもその支出に伴う利益がなければ困るのですが?」
プロスコート女侯はもっとも南東に位置する領地を治めており、周囲は王党派の領主らで囲まれている。
攻め入るための領地が近くにないこともあって、王党派の中でも内戦に反対している人物だ。
「女侯。それに対する回答は、流れによるとしか言えん。それぞれの領内の事情もあろうから、現状においては無理のない範囲でお願いすることになるだろう」
「要するに予算は下りない、増領の確約もない、でも戦えとおっしゃる」
プロスコート女侯は宰相のまわりくどい言葉をすぐにかみ砕き、目を鋭くして言葉を返した。
それに対し、宰相は楽しげに苦笑しながら答える。
「率直な物言いはいっそ清々しい。軍事費については王太后陛下の決裁が必要であり、国政に悪影響を与えるような多大な費用をあの方が許可なさるはずもない。また、領地を確約しようにも、その権限は国王陛下のものでな。国王陛下を通せば自身の領地としてしまうだろう。私の一存ではどうにもならん」
「バカバカしい。話になりません」
宰相の言葉を、プロスコート女侯が一蹴する。
国政は宰相ギール公爵が取り仕切っているのだが、その決裁を行うのは本来は国王がやるべきことだ。
しかし現王ルイシャルル8世を擁立する際に、そうした決定権を王太后ローリエが担当することに取り決めたのであった。
これはルイシャルル8世が国政に興味がないことや宰相の意向、そしてこの国王では不安だというあちこちからの声によるもの。
国の重要な決定を行えるのは王家の者に限る、という慣例があることでこのような形となっている
王太后が王の代理として政務を行うのは過去の歴史にも例があることだ。
そのような理由で宰相の一存では決められないという事態になっているのだが……。
そこへ横からミッシェル枢機卿が口をはさんだ。
「プロスコート女侯、神の秩序のためでありますぞ」
「秩序のためには金ですよ。金がなければ秩序が乱れる。ごく自然の、当たり前の世の営みです。秩序ある統治は秩序ある予算から。違いますか、ミッシェル枢機卿?」
しかし、プロスコート女侯に反論されてすぐに口ごもってしまう。
「むぅ……。あまり率直におっしゃられては困りますな」
ミッシェル枢機卿は聖職者としては世俗的な考え方の人間であるが、それだけに世間においての金の重要さを理解している。
宗教を理由として持ち出してみたものの、余計に秩序が乱れると言われては反論のしようもない。
納得しつつも苦々しい表情で口を閉ざした。
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