33.1話

「グランマ、質問です。王太后って前の王様のお后様ですよね。その人も勢力に入るんですか?」

「軍事力を持ってるわけじゃないけど城主ではあるね。一応あげはしたけど、攻めることも攻められることもないだろうから、傭兵としちゃあ今のところ関係はないと言える」


「今の国王が王位についてるのは、王太后陛下が宰相に委ねたからだ。政治的な影響力は大きい。国王がどうしようもない役立たずの豚野郎だから、宰相が認可を貰う先も王太后陛下になっているんだとさ」


 と、横からフレンツが説明を補足する。


「内戦にも関わらず国内が安定しているのも、俺らが安定して食事にありつけるのもそのおかげってわけね。国内が飢えてると食糧仕入れるのも苦労するんだぜ? 我らが食事のために王太后陛下に感謝をってな」


 冗談めかした口調と表情であったが、その言葉で笑うものはいなかった。

 やや静まったところで、ギリアンが手を挙げる。


「グランマ、次の仕事が決まったという話でしたが、雇用主はこのままグイエン侯ですか? この近くだと、宰相側にレイモン伯がいますが」


「残念、ハズレだよ。レイモン伯はグイエン候、アリエーナ伯、背後にはモントピラール伯と協調派に囲まれている状態で動くに動けない。かといってグイエン候は当面動く気はなく、モントピラール伯は宰相やルグドゥ公がお隣さんだ。こっちも動けるわけがない。争いがなければ傭兵の雇い口もないのさね」


「はて。囲んでいるのならばさっさと潰してしまうのが手っ取り早いのでは?」


 カナが率直に首を傾げる。


「それが、レイモン伯は表立って敵対もしていないのさ。派閥は宰相側というだけでね。軍事行動のかけらもみせちゃいない。囲まれた状態で敵対すれば潰されるんだし賢い行動だよ。協調派からしても消耗を避けるため、邪魔にならないなら攻める必要がない。実質的には中立みたいなものだね」


 オーリエールの説明を聞き、カナはふむふむと相槌をうつ。

 そこへ、クロが納得したように声をかけてきた。


『なるほどのぅ。セタの思惑とも合致するわけじゃな』

『セタ兄様の? どういうこと?』

『教えるのは良いが……、ここは問題にするとしよう。自分で考えてみるがよい』


『ええ? セタ兄様の思惑……?』

『何、簡単な話よ。その気になればいつでも潰せる相手を見逃しておくのは何故か。難しく考える必要はないのじゃぞ』

『……簡単。……見逃す。……ああ、そういうこと?』


 思い当たることをみつけ、カナが顔を上げる。


『左様。つまりは、いつぞやのときと同じ。お主の好きなように動けば良いのじゃ』


 クロはそう言って、満足げな表情でカナの意識を送り出した。

 オーリエールの説明が続けられている。


「今後の行先だが……。ガルフリートの南西は宰相の領地、そこで争いは起きちゃいない。ここから南は王家直轄領。……となれば、ワタシらが向かうのは東になるのが必然だね」


 現在地ボルディガレはガルフリート領内の北側に位置している。

 ここよりさらに北側はカライス伯爵領のみであり、西側はアリエーナ伯爵領。

 向う場所が東と限定されたのはそれらを省いたからだ。

 ここより東側はグイエン侯爵領プワティの街、アンデ侯爵領、中立のモンモール公爵領となっている。


「ということは、アンデ侯爵領が次の雇い主というわけですか」

「その通りだよ、カナ。王都に近い領地での争いになるから余計なやつらの干渉に気を付けな」


 カナはその言葉に無言で頷く。

 余計な干渉――、つまり近衛騎兵隊、教会や異端審問会、邪教といった組織だ。

 基本的には領主同士の内戦なのだが、その裏で企まれている陰謀にも配慮する必要がある。


「さて、話はそんなところだ。アンタらの方から、何か希望や意見はあるかい?」


 オーリエールがそう言って、団員の反応をうかがう。

 ひとり、ゆっくりと手を挙げたのはカナであった。


「はい、よろしいでしょうか」

「よろしいともさ。なんだいカナ?」


「次は軍の指揮官をやってみたいです」


 カナのその言葉に、団員たちが一気にざわつきだした。

 大活躍を見せたとはいえ、入ったばかりの新人がいきなり傭兵団全体の指揮をやりたいと言い出したのだから無理もない。

 思わぬ発言に、オーリエールは楽しげな声を上げる。


「何を言うかと思えば、めちゃくちゃな希望がきたねぇ!」

「おまえそれはいくらなんでも……」


 呆れ顔でマルキアスはそう言いかけたが――。


「いいよ、やってみな」


 オーリエールからまさかの許可が出され、驚きとともにマルキアスの声が止まった。


「グランマ!?」

「ちょっと、それは……」


 ざわざわと、傭兵団の子供たちが顔を見合わせ困惑しあう。

 その様子をみて、オーリエールはニヤリと笑った。


「いや、なに。思えば指揮官をやりたいと希望したやつはいなかったと思ってね。めちゃくちゃではあるが、子供がやりたがってることを無下に却下するのは、この傭兵団らしくないじゃないか。常識にとらわれないからこそ、子供だらけの傭兵団なんてものが存在するんだからさ。……それとも、騒いでるやつらが指揮するかい?」


 その発言によって一気に場が静まり返った。

 自身の指揮によって仲間の命が左右されるという責任の重さを察したのだろう。

 カナが指揮をとることへの不安はもちろんあるが、それでは自分が指揮官となるか、と言われれば黙るほかない。

 そうしたなかで、フレンツが口を開いた。


「ま、婆さんがやるっつうんだからしゃあねえな。俺らもサポートするから安心しろって。せいぜい無難におさまるように努力しようや」

「マジかよ……」


 ライラックのつぶやきが団員らの心情をそのまま表していた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



私事で申し訳ありません。

家族で引っ越し先を探しておりまして、書く時間がとりにくくなってきました。


これからの展開自体はすでに考案してありますので、

いったん更新を止めて、書きためてからまた再開したいと思います。


とりあえず1か月ぐらいで再開するつもりですが、

予定がはっきりしたら作者ページのほうでお知らせいたしますね。

ちゃんと続きを書いておりますのでご安心ください!


また、改めて序盤の方を短くまとめる予定です。

やっぱり長かったですよね……。


それでは、ゆっくりとお待ちいただければ。

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