32.1話

「あ、その前にミルカの刀を探さないと」

「そうでした。カナ姉様の下僕となった個体ですものね」

「……うーん、下僕は違うような。……近いのは弟子だと思うよ」

「まあ、そうでしたか」


『個体とかいう言い方もどうかと思うのじゃよ、儂』

『ほら、人見知りだから……。ロロにしてはこれでも友好的な方だよ』

『傭兵団の連中の一部とは無難にやっていけてるようだしの。良い子が多いようじゃ』


 ロロは警戒心が強く、人の悪意を感じ取ってしまう過敏な子だ。

 そして、嫌悪した相手にはストレートに暴言が飛び出すような正直者でもある。

 カナも心配していたのだが、幸いそうした問題は傭兵団においては起きていない。

 特にイブやマイとは、普段からカナと一緒にいることもあって気負わず話せているのだ。


「……ふーむ」


 武器が置かれた場所で悩ましげな声をあげるミルカ。

 その様子をみて、トーラが声をかける。


「おや、いかがしました?」

「いえ。……こちらのお店に刀は置いてありますか?」


 ミルカの質問をうけて、トーラは考えるそぶりで首を動かした。


「はてさて、どうでしたかね。ちょーっと確認するのでお待ちください。何しろ珍しいものは適当に買い漁っちゃう放埓経営なものでして」


 その言葉通り、確かに色々なものが雑多に並んでいる。

 王都で見たときも実に多種多様な品があったのだが……。

 時間の都合もあって、手袋を買ったあとは本を買い漁っていたので見物することはできなかったのだ。


「ぱらぱらっと。目録ちゃんによるとー、……ああ、ありました。一振りだけですが、ツゼルグが仕入れていますね。アリエーナ領リルデの郊外で作られたものらしいです」

「おお、それはなにより。出所からしても、まがい物ではなさそうです」


 ミルカのサポートに入ろうと、カナが話に入った。

 この中ではカナが一番詳しいので、品質のチェックをしようというわけだ。


「はい、こちらになりまーす」

「拝見いたしましょう」


 渡された刀を、カナはスラリと抜いて刀身を眺める。


「うん、ちゃんとした刀ですね。短めですが、これぐらいの方がミルカには使いやすいでしょう」


 カナが横にして持った刀身をみて、ミルカがつぶやくように声を漏らした。


「……美しい。……あのときの、輝き」

「ええ、綺麗ですよね」


 そこへマイとイブもやってきて、刀を見ながら関心する。


「これは凄いなー。切れ味が相当なものだとは聞くが、……ふぅむ、エルフバルトと似たところがあるか」

「エルフバルトって何よ、マイちゃん」


「簡単にいえば、昔のエルフの剣匠が作ったすっごい切れる剣だな。特殊な製鉄術で作られてるのが特徴だ」

「ほーん、ドワーフじゃなくてエルフが作ったん? まー、あの人らも割と技術系ではあるよね。ステキな貴金属の装飾品とかもやっとるし」


「うむ、得意分野は部族によって異なるな。この製法、シードワーフも真似しようとしたのだが、素材自体がエルフにしか作れないものだったんだ。あいつら魔力でやれちゃうからずるいよな」

「うん、ずるいなー。オラにもいっぱい魔力をくれ」


 話題が横に逸れたマイとイブがエルフをうらやんでいる。

 その間に刀身を鞘におさめて、カナが刀をミルカに手渡した。

 刀を握り、ミルカがトーラに向き合う。

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