第32話 掘り出し物の吟遊店
カフェを出て、ミルカの求める刀を探そうと歩き出したカナたち。
少し歩いたところで、一見店舗のように見える立体型の露店が目に入った。
無暗やたらに様々な商品が所狭しと並べられ、何かしらの掘り出し物がありそうな雰囲気を放っている。
「およよーん? あそこに物がごちゃごちゃしてる店舗風の露店があるねい? あんなに広場を占有していいんかいな」
「おや、あれは……。まさか?」
イブの指さした露店を見て、カナが少し驚いた。
カナが知っている、ここにあるはずのない店であったからだ。
興味をもって近づいたところ、中にいた小さな女の子が嬉しそうに駆けよってくる。
「やや、お客さんですね! ようこそ、イストリア吟遊店へ!」
花開くような笑顔で出迎えた少女が、元気よく歓迎の意を示した。
間髪入れずに少女はそのまま言葉を続ける。
「私はトーラ。なんとビックリ、この店の店長さんなのですよ!」
と、自慢げに胸をはって宣言したのだが……。
「そうなのですか」
「なんか良いものあるかなー」
「ミルカっちのお望みのものはーっと」
「……武器はこのあたりでしょうか」
「御本も置いてあるのですね」
カナがお義理程度の相槌をうっただけで、他の者はこの有様である。
何しろ子供だらけの傭兵団なのだ。
小さな子が店長という程度では特に驚きはなかったらしい。
「マイペースにスルーされて物色されております! 購買意欲が高くて、それはそれでよし!」
めげない少女であった。
カナは小さく微笑んで、疑問に思っていたことをたずねる。
「王都にあった露店と同じ店名ですが、こちらは支店でしょうか? あちらは店員さんも老人でしたが」
「おや、私の留守の間にいらしたお客さんでしたか。ご愛顧ありがとうございます。実はこの店はあちこちを旅してまわる移動式店舗の露店なのですよね。――名付けて、吟遊店です! そんなわけで、ここのところは王都を離れボルディガレで商売をしておりました」
「なるほどー、旅の商人さんでしたか」
「ええ、そういうことになります。お会いになったという老人というのはうちの店員のツゼルグですね。店員のくせに執事服をきめてますが私の執事なので許してあげてください」
「なるほどー、あのときは良い手袋を見つけてくださいました。お礼をお伝えいただければと思います」
「ええ、もちろん……。はて、手袋……?」
その言葉がでたところで、トーラが頭に指を当てて考え出す。
「もしやアレをアレな値で売りつけたという……、それはそれは。ええ、お得意様としてサービスさせていただかなければなりませんね! ……リルデとのルートが切れると困りますし」
「……もしや相当ぼったくられてました?」
カナが気まずい表情をしていると、横からロロがフォローに入ってきた。
「ええ、アレな値すぎでしたね。こう申し出ていただけたのですから、サービスに甘えさせていただくとしましょう、カナ姉様」
その両手には茶葉が入った袋が載っている。
たっぷりとしたボリュームの、しかも上物の茶葉を目ざとく見つけたのだろう。
「ちらり。うーん、いいでしょう! 少々値が張るものですが差し上げます!」
ロロの無言の提案に一瞬だけ悩むそぶりをみせながら、トーラはそれを快く了承した。
「交渉成立、というやつですね。カナ姉様、ロロもお買い物ができました」
「買ってはいないけどね……。でも良く頑張りました」
「はい、嬉しいです。カナ姉様のお好きな、美味しい紅茶を飲んでいただけますから」
ロロがふわりと優しく微笑んだ。
その笑顔をみているカナも自然と嬉しくなる。
「ありがとう、ロロ。あ、でもティーセットがないですね。困りました」
「困りましたね、カナ姉様」
そう言って、ちらりとトーラのほうに目線をおくるロロ。
「えー、茶器をお買い求めでしたらあちらのほうにあります。……そんな目で見てももうあげませんよ?」
しかし、トーラがジト目でそれを拒絶した。
しょんぼりと気落ちした表情で、ロロがカナの方を向く。
「……仕方ないですね。カナ姉様、なけなしのお給料と相談することにしましょうか」
「うんうん、一緒に探してみようか」
「傭兵のお仕事は移動が多いと思いますので、壊れにくい素材のものか、壊れてもかまわない値段のものがいいですね」
と、そこまで話をしたところで、カナは本来の用事を思い出す。
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