31.2話
「そういえばな」
「ん、どしたのマイちゃん?」
「私はカナのことが好きだぞ」
いきなりの発言に一同は静まり返って――。
「ふむふむー、なるほどー。……ふぇぇ、僕ですか!?」
「はぁぁぁんんッ!?」
「え、……カナ、さん? えぇぇぇ!?」
「……ぇ?」
――当たり前だが、大騒ぎになった。
騒ぎのなかで、ひそかに紅茶を運んできた店員の女の子も、緊迫の表情で固唾を飲む。
反響を受けて、やや照れくさそうにしてマイが小さく頷き、おどおどと微笑んだ。
「う、うん。驚きすぎだろう。こうはっきり口にすると、なんだか気恥ずかしいな」
「くっそ、かわいいな。って、乙女かーい!」
「うむ。こう見えて、うら若き乙女というやつだからな」
と、イブに答えたマイは、自信がありそうな口調のわりに頬を赤らめている。
「あ、本当にちょっと恥ずかしがってやがる。憎い……っ! その純な心が憎い……っ!」
何か純ではない心を刺激したのか、イブが握りこぶしを作って悔しそうに唸る。
そしてすぐに不思議そうに片眉をあげた。
「てか、冷静に考えたら性別的におかしくない?」
「そーなのか? まぁ、変わり者だという自覚はあるが」
「なんでそこは落ち着いてるのよ……。私か? おかしいのはイブちゃんだったか? ってイブちゃんはおかしくないよ、かわいいよ!」
「突然何を言い出すんですか。落ち着いてください、イブさん」
混乱しておかしなことを言い出したイブを、ミルカがなだめる。
好意を直接伝えられたカナの方は、少し悩んだように目を閉じていたが、やがてひとつ頷いて口を開いた。
「いきなりで驚きましたが、うん。僕もマイのことは好きですよ」
「なにぃぃぃ!?」
「カ、カナさんも?」
「……っ!?」
『にゃんじゃとぉ!』
カナの口からまさかの返答が飛び出したことで、皆が驚きの声をあげる。
そして、マイが華開くような笑顔をみせた。
驚いていたイブだが、ふと、あることに思い至る。
「まて。いやまさか、この返答は。……カナちゃん、私のことは好き?」
「え? ええ、イブも好きですよ?」
「ぐはァ! センキュー、ありがとうございます! ……これはあれだね、最高に意味が違うってやつだァ! 好きの意味がなァ!」
「……はい、当然ですね。カナ姉様なのですから」
何が当然なのかは語らないが、ロロもそう言ってイブに同意をみせた。
その手に持つティーカップの中身は少し震えている。
そんな様子をちらりとみてから、イブがさらに問いを続けた。
「ふぅむ。おふたりさんや。好きな理由を聞いてもいいかねん?」
「面白いからなー、カナは」
「面白いですね、マイは」
「息あってる! 意外とガチな相性抜群か!? ……てかどっちも意味が違うやつだったかぬ?」
ひとり考察を続けるイブに、ロロが冷ややかな目つきでひと睨みする。
「ふぅ……、愚かな。肝心なのは類似性ではなく補完性です。……それと、そろそろ本題に移ってはいかがでしょう? 飲食店でそのように騒いでは迷惑になりますよ」
「あ、なんかロロちゃんが怖い! この話やめやめ! スタァーップ! ストップ・ザ・コイバーナ!」
「そ、そうですね。お店の迷惑になりますしね」
血も凍るような視線を浴びたイブとミルカは、慌ててその話題を打ち切った。
静まったことで、ロロはニコリと笑ってカナの方を向き――。
「カナ姉様。うざくないので、よろしくお願いします」
とカナに頭をこすりつけた。
「あ、こんなところで? はーい」
カナはそれを優しい笑顔で受け入れて、さらさらとロロの髪をとかすように頭を撫でる。
「ぬぅぅ。こやつ、見せつけておるノウ」
「おー、猫みたいだなー」
それを見て、イブは変な口調でぽつりと言った。
マイの方は、少しうらやましそうに指をくわえている。
このままでは話が進まないと危惧したイブは、コホン、とわざとらしい咳をしてから元々の話題へと話を戻した。
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