31.1話

 気が付けばお昼時。

 様々な品を見て、芸人らのショーを眺め、吟遊詩人の叙事詩を耳にして、謎の占星術師からレシピを貰い、ワインを飲む人々を風景とする。

 そんな風に祭りを満喫してきたところで、何気なくマイがつぶやいた。


「結構あちこち歩いたなー」

「そうですねー。ロロは大丈夫? 疲れてない?」

「カナ姉様、もうだめです。疲れました。ロロを背負うべきです」


 カナに言われると、ロロはいきなりフラフラとしてカナに寄りかかる。

 わざとらしさ全開のその姿に、イブが思わず声をあげた。


「聞かれたらいきなり演技しだすあたり、実は余裕あるっしょ?」

「もーだめでーす」


 わざとらしすぎるロロの演技に、カナも苦笑する。

 その演技の効果はともかく、食事どきではあると考えたのだろう。

 マイがたまたま見つけた店を指さした。


「あー、それじゃあそこに入って休憩するか」

「ここってワードカフェじゃーん? 大陸のあちこちに出店してるんよね」


 看板をみたイブがそう口にすると、マイも思い出したように首を動かす。


「そう言われれば、他の町でも見かけた覚えがあるな。入ったことはなかったが」

「ほほう、あれが噂のカフェというものですか」


 カナはそう言って、その建物を観察する。

 時代を感じさせる古風な建物ではあるが、小綺麗に整えられていて、決して汚いという印象は浮かんでこない。

 イブの言う通り、上側には“ワードカフェ”と書かれた看板が掲げられている。

 配色こそ風情があるが雰囲気は明るめ、客入りも多く、入りやすい部類の飲食店と言えるだろう。


「いつもと違う茶葉が体験できそうですね。……ささ、早く参りましょう、カナ姉様」

「やっぱ余裕あるよね、ロロちゃん?」

「黙秘します」


 ロロはそうしてイブの追及をかわし、カナの腕にしがみついた。

 そんなことをやりながら、4人は店内へと入る。

 ドアを開けると、カランカランと鐘が響いた。


 中は古めかしい内装ながら、規則正しいテーブルの配置に適度なスペースが設けられ、実用的に洗練された空間が居心地の良さを表しているようであった。

 見た目にも客の数が多く、ここが人気の店であることがうかがえる。

 彼らが楽しそうに談笑する様子を眺め、カナが口を開いた。


「賑やかですねー、船乗りらしき人が多いです」

「このあたりは港に近いからな」


 店員を手で呼びながら、マイがそう答えた。


「ほうほう。あとで船を見に行きたいですね」


 そう言って、カナは楽しそうに外を向いて、――見知った者が店へと歩いていたことに気づいた。

 カランカランと誰かが入店した音がして、カナは視線を店の入口へと向ける。


「あれ、カナさん?」

「おや、ミルカですか」


 思わぬところで仲間と出会ったミルカが驚いた顔を見せた。

 それを聞いたイブも、ミルカの方を向いて微笑んだ。


「ミルカっちだー。なに、カフェ入るん? なんならあたしらと一緒にお茶しちゃう?」

「あ、その……、はい。品物を買いたくて、探していたのですけど……、丁度良い時間ですし食事をしようかなって。お邪魔でなければ、同席をお願いします」


「いいともよー。さーて、どこに座ったろうかなー。お、あの辺が密談に良さそう」

「お前は一体、何の密談をする気なんだ……」

「んーなんだろーね。とりあえずミルカっちの探し物とやらを密談しようっか」


 イブが適当なことをつぶやいたり、マイから軽くつっこまれたり、そんなじゃれ合いをしているうちに店員がやってきた。


「はーい、お待たせしました。はじめてのお客さんですね、ようこそワードカフェへ。あちらの席へどうぞ」

「あいよー」


 マイが店員の女性に軽く返事をして、4人は案内された席に座った。

 先ほどの密談によさそうと言っていた席であるが、イブの話とは無関係に、単に他の席が5人も座れるところではなかっただけだ。


 席に座ってそれぞれが店員に注文を伝えたあと、マイが唐突に思わぬことを切り出した。

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