第29話 呼び覚ますは陰謀の記憶
『よし、こやつの直近の記憶からそれらしき部分を映してやるがよい。……結構大変なんじゃぞ、他人様の記憶から必要な部分を探すというのは。かといって全部見ていたらその者の生きた年齢だけかかってしまうしのう』
頭の中でクローゲンがやや疲れたように声を出す。
実のところ、クリストハルトと約束をしたときから、クローゲンは事前にガリウスの魂を探っていたのである。
使われるのはカナの“力”なのだが、言うなればもう一つの頭脳で記憶を調査しているようなものだ。
『クローゲンがそういうのやってくれるから負担が大分減ってるんだよね。ありがと』
『よいよい。それより深入りしすぎんようにな』
『儀式の準備は済ませてあるから、これぐらいなら大丈夫』
実のところ、準備をしなくとも水さえあればカナは継承した“鍵”の力――『
古来より儀式というのは時間や物や労力を犠牲にすることで、かかるコストの軽減や成功率を高めるために行うものである。
カナの場合は記憶を探る役のクローゲンが緩衝材の役目を果たして、カナが他者の記憶に引っ張られないようにしているのでそこまでの危険はないとはいえ、無暗に危ない橋を渡る必要もない。
カナの視線が受け皿に向いた。
受け皿に注がれていた水が宙に浮く。
水の方から逆流するかのように、世界がさかさまになったように浮いている。
それはまるで、水で作られた鏡のようであった。
やがて水鏡にどこかの情景が映し出される。
「おおー、何か見えるぞ」
マイがそう言って興味深そうに声をあげた。
映っているのは大きめの豪華な部屋であった。
宗教に関係した場所なのだろう、あちらこちらにきらびやかな壁面や装飾品が見られ厳かな風情が漂っている。
「これ、……遠見の魔術に似ていますね。……現在ではなく過去を映す術ですか。仕組みが気になります。儀式の場を整えるのは魔術にも似た共通点……。でも術式の構築はしていない……? 詠唱も今回はなし……。鬼の力だから法則自体が……。前の術とは別……?」
誰に語るでもなく、イブの口から言葉がもれた。
集中して分析しているのか、いつものふざけた口調ではないのが逆に印象的だ。
「しかし誰もいないぞ? 確か聖騎士のおっさんの記憶だったよな? 本人すらいないってどういうことだ?」
「……記憶、ということは。……おそらく、視点が本人のものだからでしょう」
「ああ、なるほど。ちらっと手が映ったな。言われてみれば確かに俺たちもこういう感じで見えてるわ」
フレンツの疑問にイブが答える。
聖騎士ガリウスの視点で見えたものを映し出している、と説明されてフレンツは納得して頷いた。
映し出されている記憶に変化が起きて、ひとりの男性が部屋へと入ってくる。
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