26.2話
「……え? えええ!?」
「うーぬ、納得しちゃうイブちゃんであった……。めちゃんこ強かったしねぇ……。でもそれ、自白しちゃうんだ……」
驚愕しながらもどこか嬉しそうなミルカ、呆れた表情とともに感想をこぼすイブ。
対照的に怒気をはらんで声を荒げだしたのは、ライラックであった。
「おいおいおい。……聖女とやらの説明を聞いてたはずなんだがな。わけがわからないねぇ、な~んで魔族がここにいるのよ?」
「落ち着け、ライラック。お前の気持ちもわかるが、カナはお前の仇ではない」
「だが、魔族だろ! 魔族はあらゆる種族の敵だ。どれだけの者たちが魔族になぶり、食われ、殺されてきたか! 俺の家族もだ!」
セミナリアが鎮めようとするが、ライラックは激高したままだ。
ふむ、と一拍おいてから、セミナリアがカナの方を向いて口を開いた。
「食うのか?」
「食べますね」
包み隠さず正直に答えるカナ。
この馬鹿は……、と言わんばかりに頭を抱えるマルキアス。
何故か楽しそうなマイに呆れ顔のイブ。
「ほらみろ! 危険じゃないか!」
しかしというか、当然というべきか、ライラックは怒鳴りだした。
それに対し、んー、と唸ってからカナが首をかしげて訂正する。
「でもでも。傭兵団の皆さんも、あなたも、……特に食べたいとは思わないんですよね。そもそも、牛肉も豚肉も食べれますし、野菜でもなんでも、人と同じ物が食べれますので。特別、人間だのエルフだのにこだわる必要がないのです」
そこで一泊おいて、カナが頬に指先をあてながら言葉を続ける。
「まあ、故郷のアリエーナ伯爵領では山賊なんかは御馳走として扱われてましたけど、共存している人間には絶対に手を出さなかったですよ、みんな」
「感覚がえげつなー……」
「とんでもない故郷だな」
「山賊もそんなところで仕事しようと思わなくても……」
カナのとんでもない故郷話に、イブ、マルキアス、ミルカがそれぞれに感想をこぼした。
他の者らも同じく、目を細めて引いてしまっている。
(あれ、おかしいなぁ。そんなに危険じゃないよーって言ったのに反応が悪い?)
当然といえば当然のことであったが、カナの方は思ったような反応にならずに首をひねる。
ロロと目を合わせて、ふたりともに首をひねる。
故郷ではそれが常識だったのだから無理もないことであったが、外の人間の反応はこの通りであった。
納得したように頷いているのはマイだけだ。
「逆らう者は殺すってことじゃねえか! 信用できるか! こいつらは追放すべきだろ!」
ライラックはというと、軽く机を叩きながら怒鳴りだす始末で、カナを睨みつけて今にも飛び掛かってきそうな気配を発していた。
ピリピリとした空気があたりを包む。
しかし、カナには世話になっている居場所でむやみに波風を立てる趣味はない。
むしろ、のんびりまったり楽しく面白く、という方が性にあっているのだ。
どのような返答をするべきか、カナが首を傾げて困った顔で悩んでいると、思わぬところから声があがった。
「待ってください!」
「……あ?」
決意をにじませる表情で大きな声をあげたのはマルキアスだ。
ライラックのつぶやきを待つまでもなく、そこへ周囲からの視線が集まっている。
「……やめてください。カナは俺や俺の仲間たちの命を救ってくれた恩人です」
「マルキアスさんの言う通りです。カナさんは皆さんを助けるためにすっごく頑張ってくれたじゃないですか!」
続けて声をあげたのはミルカだ。
真正面からライラックに対峙しているが、その手はわずかに震えていた。
ライラックの視線が険しくなる。
「テメエら……、人食いを信じようってのか」
いらだちをにじませた声。
ライラックは悩むように右手で顔の上側を覆い、一呼吸を入れる。
ミルカのその姿に見たのは覚悟。
自らの信じた正しさ、カナを守ろうとする強い意志。
つまりは自身とは異なる正義を、ライラックは突きつけられたのだ。
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