第26話 聖女の理由、種族の違い

「戦場で見せたあの異常な力は、聖女ということに関係してるのか?」


 その中で、例外的に気さくな態度を崩さない者が口を挟む。

 カナの隣に座る部隊長、マイだ。


「っていきなり言われてもカナだって困るよなー? 実は戦いのあと、流れについていけなかった連中がうるさくなっててな」


 そこまで言ってから、物まねをするように口調を変えてマイが言葉を続けた。


「突然、聖女だなんだと騒ぎ出し、戦場がクソったれな宗教劇に変えられちまった。ありがたいクソなお言葉をたまわってクソ偉大なる我らがゴッドに感謝感激クソ喝采……って、セミナリアが言ってたぞ」


「翻訳したのは私だが愚痴を言い出したのは、ライラックだ」


「なんで俺の言葉にいちいちクソが入ってるんですかねえ。あとそのイラつく喋り方やめろ」

「好きだろ? クソ」

「好きじゃねーよ! どんなやつだよ俺は!」


 クソ好きという不名誉な好みをマイに押し付けられそうになってライラックが叫んだ。

 そこから嫌な顔をしながらも落ち着きを取り戻し、話を本題に戻す。


「まあ、ともかくだ。よくわからねーから、説明してくれってことさ。ドワーフがチビだとか獣人がムカツクとかそういう好き嫌いを一々俺たちに伝える必要はないが、戦いに影響を与えるとなれば話は別だ。……例えば、聖女とやらを守らなきゃならんのか、そうでもないのか、とかな」


「ムカツク獣人とは、――私のことか。それに、戦略的な話は必要があればグランマがなさることだ」

「ぼぉぇ!」


 それに、と口にする前の時点でセミナリアの拳がライラックの腹に刺さった。

 強烈なボディブローを叩き込まれ、ライラックが苦しそうに悶絶する。


「……手を出すの早すぎんだよ! 食ったもん吐き出すわ! ……まぁ、グランマからは何も言われてないから、特別扱いはしなくていいんだろうけどよ。つまりだな、俺が言いたいのは――」


「聖女について何も知らない。我々は宗教に詳しいわけでもない。だが、君の存在が領主の共闘に繋がるほどの影響力があることは間違いない。具体的にどういう価値があるのか聞きたい」


「おい、横から入ってくるな! だが、サルバドール、ナイスだ! そういうことなの! 別に吊るし上げようってわけじゃないんだ。ただ聖女って何なのかを聞きたいだけなんだ」


 ライラックやサルバドールからの質問はもっともなところだ。

 実際に重要人物として扱われるかどうかはオーリエールや雇い主らの意向によるのだろうが、それでも仲間である傭兵団にとって必要な情報は語っておくべきなのではないだろうか。

 しかし、聖女の話はアリエーナ伯爵家やクラブ一族の根幹に関わるものだ。

 どこまで話したものか、とカナがロロの方を向くと――。


「……セタ兄様からは、追放するのだから発言も行動も好きにせよと仰せつかっております。つまり、カナ姉様のご判断にお任せいたします。どうぞ、御随意に」


 と、意外な言葉が返ってきた。

 どうやら話してはいけないことがなくなっていたようだ。

 ならばどうするか、――カナは少し考えてから決断を下した。

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