第19話 マルキアスの意地

 戦場の北西、傭兵団側の左後方に位置する場所には森がある。

 そう大きくもない森ではあるが、それでも数百人が隠れられる規模はあり、この森に隠れて傭兵団はカライス伯爵軍を背後を襲ったのであった。


 そして今。

 逃げ出すようにみせかけてこの森へと入り、傭兵団に奇襲の返礼をするべく馬を走らせているのがカライス伯爵軍の指揮官、ジョルジュ将軍だ。

 

 これから森を抜け平原にさしかかろうかという位置。

 そこに思いもよらぬ伏兵が潜んでいることにジョルジュ将軍は気づいた。


 一度に5本の矢が飛来し――、それらをいともたやすく片手に持つランスを回して弾き飛ばす。

 見事な武芸を見た聖騎士から称賛の口笛が鳴らされて――。


 そこへ間を置かず前方の木の陰から姿を見せたのは、上物の武装をまとう強い目の少年――マルキアスであった。


「ここから先には行かせないぞ」


 はっきりした声で宣言したマルキアスが剣を構えた。

 思わぬ若さにジョルジュ将軍は少しだけ驚いたが、そういえば子供だらけの相手であったな、と思い直す。


「ほお? こんなところで見つかってしまうとはな。食料調達にきて偶然出会ったというなら、……私はうまくないぞ?」

「読みだ。戦況から判断して、森に入りながらも最短で突入できる道を選ぶ、とな」


 きっぱりと答えるマルキアスの姿に、感心するような表情でジョルジュ将軍が余裕たっぷりに頷いた。


「おお、確かにな。急ぐあまり単調なコースになってしまったか。いやはや、子供にも見破られるとは。やはり、私は将には向いておらんな」


「いえ、ジョルジュ将軍は普通ですよ。邪魔がいたとしても迂回が容易な平原ではなく、馬を走らせる始点のこの森の出口で待ち構えているのですから、この子の才をこそ褒めるべきでしょう」


「無能ではなく普通とは。そんなに褒められるとこそばゆいな」

「将軍のことは褒めておりません」


 簡潔に否定され、ジョルジュ将軍は口をへの字の曲げておどけてみせる。


「やはり将軍か。このマルキアスが来た以上、先に進めると思うなよ」


 そんな、まったく焦りをみせないそうした敵の姿をみても、マルキアスは動じずにそう言った。

 生真面目な少年だな、と口にはせずに、ジョルジュ将軍がその意志に応じる。


「子供ながらに気づいたのは褒めるべきだろうが――」


 ランスを構え、馬を走らせようとしたその時――。


「槍! 構え!」


 周囲から伏兵が姿を見せる。

 槍を構える5名の武装した若者、マルキアスが率いる隊員だ。


「……いやはや。たったそれだけとは、若い。蛮勇と言わざるを得んな」


 しかし、それもすでにジョルジュ将軍は看破している。

 先ほどの矢の数から見ても、この遭遇が伏兵であることを考えても、目の前に立つ少年だけであろうはずがないのだ。

 そしてそれはジョルジュ将軍が想定していた人数よりも少なく、まったく脅威とは思っていなかった。


「いまだ、投げろ!」


「何!?」


 ジョルジュ将軍が驚きとともに、ランスを構える。

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