第18話 サポートしている支援隊
最初こそどこかお行儀よく振舞っていたカライス伯の精鋭部隊も、一方的な劣勢に追い込まれたことで、なりふり構わず暴力性を前面にだすようになっていた。
自分たちは訓練を受けた強者であるという驕りは、いつしか、すがりつくためのプライドへと変わり果て。
勝利を信じていた余裕は、ただ生き残りたいという必死さへと変化したのだ。
そして、その変化こそが劣勢に追い込まれてからの反撃に繋がっていた。
「てやー」
カナがまったりした掛け声にあわせて杖を振るう。
気の抜ける声とは裏腹に、殴りつけられた騎士は強烈な縦回転をしながら敵陣の方へと吹き飛んでいった。
危機にあった傭兵団の仲間をその一撃で救うための攻撃だ。
窮地を救われた背の高めな少年は、血を流しながらそのまま崩れ落ちる。
そこを抱えてイブのもとまで運ぶのがミルカであった。
「はぁはぁ……、無事運んできました! イブさん、テッドさんの治療をお願いします!」
「ほいきた、イブちゃんにお任せよんよん」
前線での治療を一手に引き受けるのがイブだ。
助けた負傷者の傷口に錬金術の治療薬をかけて魔力を注ぎ込む。
重体のため、薬の力を促進させているのだが、これには錬金術師ならではのコツが必要である。
「だんだんと、本来の――」
シャン、と音を鳴らし、瞬く間に周囲4人の敵兵を吹き飛ばす。
カナの振るった杖の一撃は目にもとまらぬ速さであった。
まるで超常の力を振るわれたかのように、周囲に驚きが走る。
「――お役目が忙しくなってきましたね、っと」
カナが率いるのは予備隊、支援隊などと呼ばれるサポート役の部隊。
その本来の役目は危機にある仲間を助けることだ。
暇つぶしと称して暴れていた戦場からやや左へと場所を移した理由。
それは左の味方が不利になっていた、――いや、不利になるとカナが予測したからであった。
このあたりには重装備の敵兵が多く、すなわち精鋭であると判断できること。
この周囲の味方側に際立った強者が不在であることなどを察知したのがその理由である。
たからこそ、事前にカナはその付近で敵の勢いを削いでいたのだ。
「うっし、処置おっけぃ。ミルカっち、後ろの部隊に預けてきて!」
「は、はい! 仲間を……助けなきゃ……。はぁ、はぁ……」
意識のない怪我人を背負い、ミルカが後方の安全地帯へと向かった。
「ほれほれ、他の部隊の君たちも運ぶの手伝って! ったく、手伝いが増えても治療できるのはアテクシだけってのは変わりゃしないんだけどさー、っと。――オラ、薬キメろやァ!」
この場所は先ほどまでは最前線であったのだがカナが来たことでやや落ち着いた状況になっている。
そのことを周囲の仲間たちもイブに言われたことで、はっとしたように気づきその指示に従い出す。
そこへ後方から援護の矢が降りそそぐ。
「後ろのエルフの人の部隊ですか。いいタイミングですね。お見事、お見事」
カナがにこりとまだ名も知らぬ味方を褒め称えた。
先ほどから絶妙なタイミングで届く援護攻撃は後方に位置する弓隊からのものだ。
敵がうろたえだしたあと、カナは杖を地面に立てて、その上に乗って周囲を見渡した。
「向こうが必死になってきたのもありますが、奇襲による混乱から立ち直ったことで本来の実力を発揮できるようになったのでしょうね。それでもお味方が優勢なことに変わりはありませんが、立て直した敵指揮官もあなどれません」
敵軍の動きからは堅実さ、手堅く戦おうという意識の変化が見て取れる。
対峙する敵を潰そうという動きから、崩されることのない動きへと。
ここからはお互いにじわじわとした展開となるのだろう。
オーリエール傭兵団にとっては被害が増えていく戦いにならざるを得ない。
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