16.1話
「それが……、あのロロという子が」
そうこぼした少女の視線の先では。
「――魂糸縫合」
まったく動じることなく、ロロが腕を切断された少年の処置をしていた。
正確にして精密、それでいて速く。
熟練した仕立屋のように、迷うことなく縫い留めていく。
ほんのりと輝く奇妙な糸で腕を、血管を、神経を繋ぎ合わせ、わずかの間をもってその施術は完了した。
「腕は繋げました。いずれ時がたてば動かせるようになるでしょう。たぶん」
何事もなかったように、ロロは静かに告げた。
不安になりそうな言葉も付け加えられていたが。
一方で少年は、涙を流しながら感謝する。
「……た、助かったぜ。よかった……、俺の、腕が戻って……」
「やった!」
「よかった……。ありがとう、ロロ!」
拍手の音とともに、治療隊のメンバーがロロに歓声をおくる。
「感謝には及びません。役目ですので。めんどいですが。……早くごろごろしたいです」
目をつむり、ロロはそう答えた。
いつものように感情は見せない。
オーリエール傭兵団はそこそこの人数こそいるが、決して数を誇れるような傭兵団ではない。
そして傭兵団なのだから子供の多くは華々しき前線での活躍を望むのも自然なことであり、どうしても後方支援側に割く余力が少なくなる。
それに治療隊は特殊技術が必要とされる部隊だ。
適正のないものはほとんど役に立つことができない。
適正のあったイブが前線にあがったのは、イブは錬金術師であってその薬は当人がいなくても使用できるという点と、前線で救助を行うにあたり治療ができるものが必要と判断されたためだ。
変わって他の少女が治療隊に来たのだが、経験の浅いこの少女がとまどう中で、ロロが見事に処置してのけたのである。
少し離れた位置でみていたオーリエールが、ほう、と感心したように声を漏らした。
「あの調子で、不思議な技を使い重傷者の治療を手早くやってくれていたので、負担がかなり軽くなりましたよ。……まるでグランマがいらしたような安定感です」
オーリエールの隣にいた少女が情熱的にこれまでのロロの活躍を伝えるが、聞いているのかいないのか、オーリエールはロロを見つめたままひとりごとのようにつぶやきだした。
「凄いねえ、見事なもんだ。精密さもさることながら、なんだいあの糸は? きっちり繋ぎとめたあとに見えなくなる、溶け込むようにね。……なるほど、不思議だねえ」
そう言って、オーリエールが目を細める。
わずかの間に消え去ったその不思議な糸の出所を、オーリエールは捉えていた。
ロロの背後にあった糸を吐き出す不思議な穴と、それを受け止め回す糸車を。
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