第16話 治療隊
「……伝令からの報告は以上となります」
オーリエール傭兵団の本陣において、副官セミナリアからまとめられた戦況を聞いていた。
挟撃が成功しているとはいえ、想定以上の戦果となっているのだが、オーリエールが何より喜んだのは想定よりも損害が少なかったことだ。
なにしろこの傭兵団は子供を拾い育てるという方針であるので、即戦力を補充することが難しい。
他の傭兵団よりも損害を減らすことに気を配る必要があるのだ。
「おうおう、順調じゃないか。予想よりずっと良い。マイがうまく主導権を握ってくれたねぇ。フレンツはいつもどおりに、カナもいい仕事をしている。おかげで死傷者が減ってるねえ」
「あの新入りの子、カナがものすごく活躍しておりますね。私も驚くばかりですが……、グランマはご存じでいらっしゃったのですか?」
「あの一族のことは知っているし、セタの坊主からもある程度は聞かされているからね。これでも小手調べ程度の活躍だろうさ。それでも思った以上だったよ。……はてさて、カナに全力で戦われてもガキ共が経験を積めないし、加減が難しいところだねえ」
オーリエールが実力的に抜きんでていると理解しながら、カナを救助部隊に任命した理由のひとつ。
それは被害を減らしつつも、傭兵団の子供たちを戦場で育てることにあった。
もちろん、事前に戦う相手のことを調べているからこその調整である。
その言葉にセミナリアが小さく頷いたところで、本陣が少し騒がしくなった。
呼応するように、オーリエールが立ち上がる。
「……さて、と。何人か運ばれてきたか。そろそろ、ワタシの役目を果たすとしようかね。総指揮は任せるよ、セミナリア。といっても、どこも崩されそうにないから、出番のない置物だろうけどさ」
「承りました。いってらっしゃいませ、グランマ」
表情を変えることなく、セミナリアが目を伏せた。
総指揮、といっても戦いのデザインはすでに構築されている。
現場は各部隊の判断で動いているわけで、状況が変わらない限りは特に仕事もない。
ゆっくりと、その変化を見定めるのが役目といえるだろう。
セミナリアは横にいた同族の子供に紅茶を頼み、オーリエールの椅子へと座った。
尊敬する師、グランマと同じ考えへと至れるように真似てみる。
家族である子供たちを、一瞬の変化によって失わないように。
傭兵団本陣の後方には、簡易的な柵で囲われた一角があった。
大地に敷かれた布の上では戦場で傷ついた傭兵団の子供たちが血を流し横たわっている。
そうした怪我人の手当てを行うのがオーリエール傭兵団の治療隊だ。
そこへオーリエールが姿を現した。
現場にやってきた団長の姿をみて、治療隊の子供たちが喜ぶ。
「グランマ、いらしていただけましたか!」
「よかった。ご指導お願いします!」
「おや。……勝ち戦でも死傷者は避けられないものだが、今回はやけに余裕があるね。喧噪と悲鳴で溢れる治療隊にしては珍しく明るいムードじゃないか?」
オーリエールがそう言って、片眉をあげて微笑んだ。
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