15.1話

「失敬ですよ。僕は至って普通です。イブほどではありません」

「さらりと侮辱されるイブちゃんであった……」


「ここには実戦をしてくれる相手がいっぱいです。いい練習になるでしょう?」

「これは、練習じゃ、なくて、実戦、で、しょうが!」


 ちょうど攻撃されているところだったらしく、途切れ途切れだがイブは回避しながら器用に不満をもらしている。


「イブもなかなかの身のこなしですね」

「必死ですがな!」


 すれすれのところで敵兵の槍をかわしながら、イブが叫んだ。

 そういいながらも危なげのない動きをしているので、カナは手出ししなくて大丈夫だろうと判断したのだが。

 イブがふところから小さな筒状金属をとりだし、そのふたをとって中身の液体を敵兵にぶちまける。


「――【発火シャラーラ】!」


 そしてイブの短い詠唱によって、液体は爆発した。


「おや。それが錬金術というものですか。はじめてみましたが、面白そうですね」

「見てる分にはそうでしょうとも! いや錬金術に興味をもってくれたのはうれしいけどさ!」


 イブがそう言いながら、爆発のあとも別の筒から粉をふりまいて、燃えさかる小さな火の玉のようなものを作り出す。


「――【火石ハイニーヤ】!」


 火の玉がつぶてのように飛び散って、敵に襲い掛かった。

 火の玉は着弾とともに爆発し、近隣の敵兵を巻き込んで吹き飛んだ。


「……ま、魔術師か!?」


 驚いた敵兵が後退して、いったん距離があけられた。

 イブの怪しげな術によって警戒が強まったのだが、底知れぬ強さで軽々と兵士たちを倒していくカナに恐怖を覚えたことも少なからず影響を与えていただろう。


「うんうん。回避と防御の練習、そこから攻撃に移る練習なのです。ふたりとも、その調子ですよ」


 ひとり、のん気な調子で笑っているのがカナだ。

 そんな戦場にまったく似つかわしくない、のんびりした表情でたたずむ少女に、はじめは敵兵も戸惑いを見せてはいたのだが……。

 それもはじめだけであった。


 その圧倒的な強さを見せられているうちに、もっとも警戒すべきエネミーとして、カナたちの周囲には精鋭兵ばかりが集まるようになっていた。

 ――正確にいえば、普通の兵たちが恐怖して近寄らなくなったのだ。

 敵からすれば、カナたちは戦場にいながら余裕しゃくしゃくに自分たちを的にして実習のようなことをしている、不気味で異常な連中にしか思えなかったのであろう。


「あ、それは危ないですね。ちょいちょいなっと」


 ミルカの側面から放たれた敵兵の突きを、カナが割り込んで受け流し、即座に突きを放って顎を捉える。


「受け流しての反撃はこんな感じですよ、ミルカ」

「は、はい! ありがとうございました!」


 驚きながらミルカはカナに礼を言う。

 カナであれば受け流さずともそのままカウンターで倒せたのだが、ミルカのために無難な選択を見せたのだ。


「次は攻撃です。これは楽ですね。要するに当てればいいんです」


 そう言いながら、カナは敵兵と同じぐらいの速さで攻撃を見せる。

 わざと攻撃の速度を落としているのはミルカへの配慮だ。

 少しでも腕の立つ者なら防がれてもおかしくないような速度だが、不思議なことに次々と的確に身体に当たっていき、すべて一撃で倒していく。

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