第15話 実戦に勝る訓練はなし
オーリエール傭兵団とカライス伯爵軍の戦場は中央部の部隊長マイの活躍によって、優勢へと傾いていた。
しかし、カライス伯爵軍の中央部も騎士や騎兵をはじめ、訓練された正規軍である。
いまだ勝利を決定づけるまでには至っていない。
右側の戦場はその余波によって中央部に食い込んだマイの部隊を叩こうと、周辺のカライス伯爵軍が集まってきており、傭兵団ではその動きを好機とみたギリアンらの右側の部隊が中央部との挟撃を成功させている。
その補助に回っているのは教官を務めるフレンツの部隊だ。
フレンツは的確なサポートで危機に陥りそうな箇所に現れ、それを防ぐという支援隊を率いている。
熟練の傭兵であるフレンツはその豊富な経験を活かして、戦場のほころびを塞ぐという難しい役目を難なくこなしてしまうのだ。
これらの経緯をあわせれば、戦場の右側は安定したものと言えるだろう。
そして左側では、――異変がおこっていた。
シャラン、という杖の音色。
その音色とともに、数人の男たちが軽々と吹き飛んでいく。
銀髪の少女。
華奢な身体つきの、戦場に不釣り合いな、まるで緊張感のない笑顔をみせる少女の杖によって。
「とまあ、このように。大体こんなとこかなーっていう感じで叩けばいいんですよ」
剣を振るうかのようにして杖を軽々と操り、カナは次々と近くにいた敵兵を叩き飛ばした。
どの攻撃も敵兵に防がれることはなく、一撃でいとも簡単に倒している。
雑な説明をするカナに、ミルカはかろうじて返事をするのが精一杯であった。
「……す、すみません。……えーと、よくわかりませんでした」
防がれないというよりは、防ごうとしたがその軌道をずらされ防げなかった、というべきであろう。
相手の防御の動きに合わせて軌道を変化させる、変幻自在の妙技。
一瞬の間に、その素振りすらなくカナの立ち位置がずれることもしばしばあった。
「おや、ちょっと速かったですか?」
「うっすらとは見えましたが……。ゆっくり見ている場合でもなかったといいますか……」
といいながら、ミルカは歯ぎしりとともに力をこめて踏ん張っていた。
ちょうど、敵兵の力任せの攻撃を防いでいるからだ。
なんとか力の方向を逸らして敵兵を斬りつけたあとに、ミルカが叫ぶ。
「……なんで、俺たち最前線にきているんですか!?」
ミルカが取り乱しているのも無理はない。
何しろここは戦争の最前線だ。
そんなところにいるのだからゆっくり見学している暇などあるわけがない。
今のわずかな言葉を発する間にも攻防が発生しているほどだ。
「ほんとだよ! 私、何でここにいるの!」
半ば無理に連れてこられたイブも、後ろから苦情をいれてきた。
部隊のメンバーからあがる不満の声に対し、カナはニコリと笑顔で返答をする。
「実戦に勝る訓練はないっていうじゃないですか。ですから、来ました」
「だめだこいつぅ。ワタシより意味不明だぞぅ」
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