15.2話
「……え? ……どうやればそんなに、防がれることなく当てられるんですか?」
その奇妙な光景に、ミルカは驚きながら質問した。
「簡単です。当たるようにすればいいんですよ」
それに対するカナの答えがこれである。
答えになっていない答えに、イブがあきれながらため息をつく。
「だめだこいつ。師匠に向いてない系の天才不思議ちゃんですがな」
「褒められてるようで失礼なことを言われた気がします」
むー、とカナが少しむくれてみせる。
カナとしてはしっかりわかりやすく教えているつもりだったのだ。
「くそ、かわいいな。……んー。あのね、カナちゃん。もっと細かくわかりやすく解説していかないと人類には伝わらないんだぞぅ?」
「あ、わかりにくかったですか?」
イブの指摘をうけ、カナは目をつむって考え込んだ。
その姿は戦場のただ中で隙だらけなようにもみえるが、逆に不気味であったのか周囲の敵兵はカナの動きをうかがっている。
異様な光景だ。
彼らはこの恐ろしく強い少女が攻めてこないのならば、いっそこのまま何もしないほうが安全だと考えていた。
震えながら、何もしないでくれと祈りながら、その出方をみつめている。
「んー、つまりですね。――こう。必要な速度、必要な力で、必要なタイミングをみて、必要な軌道を進むだけなんですよ」
「わかったような……わからないような……」
カナが頑張って考えた説明だが、ミルカは要領を得ないという顔をしている。
「舐めるな、小娘! 大人の力をわからせてやるわ!」
自軍に怯えの色が広がる様子を見て、隊長格の男がカナに突進した。
騎士鎧姿であったが騎乗していないのは、先ほど吹き飛ばされた兵士が馬に直撃して、馬がすくんでしまったからだ。
力いっぱい上段から振るわれる騎士の両手剣。
鋭い勢いであったが――。
「うおおおお、お? あ、おおおッッ!?」
「はい、くるりんぱー」
カナの杖がその持ち手に触れた瞬間、騎士はふわりと回転した。
杖を回してバランスを崩し、騎士の振るった力を利用して転倒させたのだ。
少女が筋骨隆々の騎士をいともたやすく投げ倒すという、まるで魔術のような光景に周囲は絶句する。
「防御することも攻撃の一種として捉えると効率がいいですね。こんなかんじでやってみましょう」
「ええと、俺は、その……。普通の人間なので……、そんな動きはできないかなーって……」
常人にはできない絶技を、やってみましょうなどと気軽に要求され、ミルカが冷や汗を流しながらフルフルと首を振った。
『……カナよ、それは儂の故郷で生まれた武術であり、達人にしかできん技じゃぞ。お主は子供のころにあっさり習得したからわからんだろうが、やれと言われてできるようなものではないぞ』
『……え? そうなの?』
大変もっともなクローゲンの指摘にカナは少し驚いた。
小さなころに父親から要求された技術なので、簡単にできるようなことだと思っていたのだ。
「……ん、その。……まあ、できる範囲で防げれば構いません。……っはい、では次です。このように敵の自由を奪ったあとも油断してはいけません。気絶させたと思っても、です」
なんとなく気まずかったのか、カナはさっさと次にうつることにした。
ごまかすような笑みの中に、少し苦い表情をみせつつ。
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