13.2話
「どうした、臆したか! 卑怯者め!」
挑発。
あるいは、ただの遠吠え。
そうした敵の理不尽な怒りを聞き、マイは満足そうに頷いた。
頭の中にあったアイディアが、そのままに再現される喜びだ。
楽しくて楽しくて仕方がなかった。
「うむうむ、グッド。実践テストは順調だな」
楽しくて楽しくて、仕方がないから、――つまり仕方がないのだ。
「――では私もテストを開始するとしよう。ディック、指揮は任せるぞ」
「おいおい、またかよ隊長サマ。――おら、マイが突っ込むぞぉ、道を開けろ! 援護を忘れるな!」
本来ならば、堅実に指揮に徹しているのが正しいのだろう。
しかし、仕方がない。
戦術家にして技師であるマイの、もうひとつの側面がうずくのだから。
かつて大陸を蹂躙し、震撼させた戦士集団。
北海諸島を中心とした、強大なるデナール帝国のシードワーフたち。
ベルセルクと呼ばれた、死を恐れぬ狂戦士たち。
――その血族であるマイの、戦士としての闘争本能がたぎるのだから。
「ふははは。では、私の盾の、実験体になってもらうとしようか!」
右手に盾、左手にも盾を携えて、マイが単身で敵陣に入っていく。
襲い来る騎兵や騎士をものともせずに。
そのまま盾で殴り倒し。
盾から飛び出した刃で切り倒し。
盾の裏側に組み込まれたクロスボウで撃ち倒す。
様々な機構を備えた分厚い盾で、マイが次々と周囲の馬乗りたちを処理していく。
たったひとりによる異質すぎる戦いぶり。
見たことも聞いたこともない不可思議な武装。
そして何よりも、全身を鎧と盾で包んだ少女の異常なる強さに、騎兵隊はなす
左右の盾により全てを受け流し、盾を滑らせ刃で斬る。
小柄な身体ならでは俊敏さ、見かけに似合わぬ剛力、精密なる戦いの技巧。
すべてが、なにひとつ。
なす
盾の裏側で無機質な音が鳴る。
自動的に装填される新たなる矢。
これもまたシードワーフの血がなせる技。
シードワーフらは勇猛な戦士であり、極めて優れた鍛冶師でもある。
だがマイは鍛冶の技術に飽き足らず、古代の伝承と自らのアイディアによって、様々な独自の武装を作り上げていた。
「……なんだ、あれは。……盾、なのか? あれが、盾だとでもいうのか」
とある騎士のつぶやきが、マイの耳に届いた。
「盾だとも。何しろ作った本人がそう言っている。――まさか盾が、防ぐことしかできないとでも?」
そう言って、マイは不思議そうに眉をひそめる。
無機質な音が響く。
盾の先端からクロスボウの矢が放たれ、驚いていたその騎士も撃ち抜かれた。
「シールドアタック。盾で攻撃するなど常識だ。そこらの冒険者ですら知っていることだぞ」
なるほど、盾での攻撃は戦士の間では常識だろう。
そこらの冒険者ですら行う、当たり前の行為だろう。
しかし、このように多様な攻撃手段を備えた盾などを、想定しているはずもなく――。
「さあ、正々堂々だよ。正々堂々と、殺し合いをしようじゃないか。高潔なる騎士諸君」
そう言って、クロスボウの発射口を突きつけながら、マイは楽しそうに笑った。
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