第13話 革新の戦術技師

 正面の敵に気を取られていたカライス伯爵の軍は、背後に現れたオーリエールの傭兵団の奇襲を受けて、混乱のさなかにあった。

 まだ背後からの敵に気づかない兵も多く、その隙を突いて、少数ながらオーリエールの傭兵団が食い込んでいく。

 川向うから敵軍が現れるとは思ってもおらず、矢を撃たれたことでようやく一部の者だけが気づけたぐらいだ。

 当然、カライス伯の軍にとって背後の敵をこのまま放置することはできず、浅い川を再び渡ってでもそちらに兵を割かざるを得ない。


「後列の部隊は反転せよ、後方から敵の奇襲だ! 死にたくなければ急げ!」


 不幸中の幸いと言うべきか、野戦に備えて連れてきた騎兵隊が、まだ川の前に残っている。

 ジョルジュ将軍の怒声によって背後を振り向いた兵たちに、そこには奇襲とは別種の驚きが待っていた。


「え? こ、子供!?」


 対峙する敵軍を見て、兵たちから言葉が漏れる。

 ガルフリート王国の貴族の軍を相手にしていた彼らには思いもよらぬ光景であった。

 なんと小さな体格の子供の集団が、不揃いの武装で襲い掛かってくるではないか。


 その驚きと油断、その隙が痛手となった。


「いくぞ! マイリーズ隊、前進! ワタシに続け!」


 獰猛に食らいついたのはマイの部隊だ。

 中央を預かるマイが敵陣に斬り込み、次々と混乱したカライス軍を倒していく。


「……傭兵か!」


 ジョルジュ将軍から言葉がこぼれる。

 敵に前後を挟まれた状況、これをすぐに立て直さなければならない。


 幸いにして敵の全てをあわせてもカライス伯爵軍の1000には及ばない数であった。

 ふたつに分ければ500対300の戦い、二正面での戦いにもちこめば十分に打開は可能となる。


 もちろんあくまで単純な計算の話であり、すでに1000を割る数しか残っていない。

 おまけに歩兵が川を渡るまでは数的不利を強いられるという厳しい状況。


 そうした状況を踏まえ、ジョルジュ将軍が急ぎ混乱を収めるべく、小船の上から激を飛ばす。


「うろたえるな! 傭兵風情と正規軍の質の違いを教えてやれ!」


 不利な戦いを強いられているのは間違いないのだが、将軍として何もしないわけにもいかなかった。

 代々カライス伯爵家に仕えてきた騎士の一族として、戦場を夢見てきた武人として。

 逆境こそが武人の輝くときだと、そう自分に言い聞かせる。


「よし、教育してもらおうかね。傭兵風情との違いとやらをねぇ」


 敵陣からあげられた叱咤の吠え声にオーリエールはニヤリと笑みを浮かべた。

 教えてもらえるとあらば、そこには感謝の気持ちも湧いてこようというものだ。

 教育こそは、この傭兵団の主軸のひとつであるのだから。

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