12.1話
「攻城戦を開始せよ!」
カライス伯爵の軍を指揮するジョルジュ将軍の号令と共に、1000の兵が前進を始めた。
リボーヌ城に取りつくためには川を越えて進まなければならないのだが、川自体は歩いて渡れないほどのものでもない。
そこで、カライス伯爵の軍がとった作戦は、多数の兵での一斉渡河であった。
次々と城の守備兵から弓が放たれるが、大軍で一度に渡河することによって、その被害を最小限に減らす狙いだ。
盾を構えて防ぎながら進むカライス伯爵の軍が、その狙い通りに進むかにみえた。
しかし、東側の小さな丘の裏側に隠れるように布陣していたグイエン侯爵の軍が、その側面から襲い掛かった。
「なははは! この私が大人しく城に引き籠るとでも思っていたかね。やーい、ばーかばーか! お前のかーちゃんマザーファッカー!」
その奇襲のすぐあとに、リボーヌ城の城壁側から挑発の声が響き渡る。
戦場に不釣り合いともいえる冗談めかした口調で胸を張るのは、グイエン侯爵であった。
「ぐぐぐ……。おのれグイエン侯! 相変わらずふざけたノリの男よ。貴様が威張る筋合いはないわ。部下の手腕だろうが!」
怒りをにじませて、カライス伯爵が城壁に立つグイエン侯爵に大声で答える。
それに対し、滑稽な動きをしながらグイエン侯爵が挑発した。
「優秀な部下を手足の如く扱ってこそ主君というものだぞぅ。手もみしすぎて貴族の誇りも忘れてしまったのかね? 嘆かわしいな、カライス伯よ」
「品性下劣で貴族らしさのカケラもない貴様に言われたくないわ! ……ジョルジュ将軍、早く叩き潰せ!」
カライス伯爵が怒鳴り声をあげたときには、ジョルジュ将軍がすでに指示を行っていた。
「怯むな! 敵は少数だ。一気に片付けるぞ! 右側の部隊はそのまま攻城を続けろ。中央は私についてこい!」
「おお、なんと卑劣な。数を頼みにするとはそれが騎士道かね! 正々堂々とひとりずつ挑んできたまえよ!?」
「やかましい! ……あのボケ野郎を黙らせるんだ! 矢をあびせろ!」
その指示に従い、カライス伯爵の周囲の兵が矢を放つと、城壁に立っていたグイエン侯爵が慌てて後ろに飛びのいた。
「ま、待ちたまえ! 話せばわかる、話し合おうじゃないか! 安易な暴力を振るっていては大変なことになるぞ!?」
当然ながらそんな言葉には耳を貸さず、ふざけたことを話し続けるグイエン侯爵に狙いが集中していた、その時――。
カライス伯爵の軍の斜め後ろ側から、矢が射掛けられた。
まったく予想もしていなかった方向からの攻撃に、兵が慌てふためき斜め後ろを振り返ると、――川の向こう側には300程の部隊が立ち並んでいる。
正規軍とは思えないバラバラの恰好をした者たちの姿をみて、それが傭兵団だと気付く。
「な、なんだと? ……あれは、まさか。……兵を隠していたのか!?」
完全に挟まれる形になったカライス伯爵とその軍は、どちらの敵に向かえばいいのかわからずに混乱する。
傭兵の部隊は川の向こう側であり、浅い川とはいえ接近するまでには少なからぬ被害がでてしまう。
かといって放置したままでは一方的に撃たれ続けることになるのだが、逆側で戦っているグイエン侯爵の軍に背を向けるわけにもいかない。
そして、二正面での戦いを強いられ浮足立つカライス伯爵の軍に、さらなる試練が待っていた。
「ほーら、言わんこっちゃない。私なんぞにかまっているから全体が見えんのだ。大変なことになると、忠告してやったのになぁ。……兵士諸君、矢の雨をプレゼントしてやれ」
グイエン侯爵の指示とともに、リボーヌ城から一斉に矢が放たれる。
この三方からの包囲攻撃がグイエン侯爵との軍議でオーリエールが提案した作戦であった。
オーリエールたちは手前の森に隠れ奇襲のタイミングをうかがっていたのだ。
グイエン侯爵たちが注意をひきつけている間に、傭兵団が密かに死角から近付き、――その結果がこれであった。
「さあて、ガキ共。お仕事の時間さね。しっかり働きな!」
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