第12話 リボーヌ城防衛戦

 リボーヌ城の北西側に広がる草原地帯。

 そこへ現れた兵の大群が硬い靴の音を鳴らして行進を続けていた。

 彼らが掲げる旗、カライス伯爵家の紋章旗が、風を切ってたなびく。

 ガルフリート王国の貴族にして王党派に所属する領主、カライス伯爵の軍である。

 

 やがて号令と共に1000人を超す軍の行進が止まり、後方に控える高貴な鎧姿の男が隣の重武装の男に声をかけた。


「うむ? グイエン侯は布陣しとらんのか?」

「ええ、カライス伯。どうやら最初から籠城という選択のようですな」


 細かい意匠の高貴な鎧を着こむカライス伯爵に答えたのは、この軍の実際の指揮官であるジョルジュ将軍だ。


「我々に怯えて引き籠ったわけだな。あのような城で守れるとでも思っとるのか。……いや、数も少ないのに正々堂々たる正面決戦を選ぶ方が愚かであるか」


「事前の情報からリボーヌ城の軍はせいぜい300の兵といったところでしょうから、当然ではありますなぁ。我々は周囲に敵がおらず全力で攻めることが可能、その上あらかじめ軍備に力を注いできた差でしょう」


 ジョルジュ将軍の言う通り、カライス伯爵はこの時のために密かに軍の増強を行っていた。

 多くの貴族が直前になるまで考えもしなかった戦乱の時代の到来、それを読みきるあたりにこの男の非凡さが現れている。

 彼の領地、カライス伯爵領はガルフリート王国の最北にあり、海上交易が盛んな地だ。

 他国の交易商人などが頻繁に出入りするだけあって独自の情報網があるのだが、そうして仕入れた情報を合わせ、導き出した結論であった。


「奴の本拠であるプワティにも守備の兵を割かねばならんしな。近隣の友好勢力といえばアリエーナ伯だが、動いてはおらんな?」


「はっ。そちらにも動きはありません。宰相殿に隙を見せるわけにもいかず援軍を出すことはできないでしょう」


「ふむ……。邪魔が入らないうちにさっさと片をつけたいところだが……」

「奴らが出てくるように街を略奪に行きましょうか?」


 ジョルジュ将軍がそう提案するが、カライス伯はそれに渋い顔をみせる。


「ここを落とせば我々が街を支配することになるのだ。時間がかかるようなら略奪も必要だが、なるべくなら無傷で手に入れた方が利益は多かろう」

「言った私も気が進みませんからなぁ。良き判断をありがとうございます。それでは攻城の準備を致しましょう」


 そう言って、将軍は馬上で手を合わせて前線へと馬を走らせた。


「……ふふ。長年、同じような位置の海上交易都市として目障りな街であったが、手に入るとなると愛でてやりたくなるな」


 カライス伯爵がにたりと笑みを浮かべる。

 交易の街カライスで育った彼の考え方は貴族というよりは商人のそれであった。

 商売上の好敵手であったグイエン侯爵の収入源を奪うという算段だけで、彼は宰相の側を選んだのである。

 もっとも、本来の趣旨である“宗教”を理由に争うよりは、よほど正常なのかもしれないが……。

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