9.3話
テントを張り方を習って、やるべきことを終えたカナは、マイのところで地図を見ながら話し相手になっていた。
防衛地点の地図、つまり戦術の相談だ。
「……と、こういう陣形を組んで被害を減らしつつ行こうと考えている」
次々と、マイが見事な陣形の図を書いていく。
技師というだけあって、まるで設計図のようであった。
『こやつ、なかなか理論派じゃな。シードワーフっちゅうのは武闘派が多かったはずじゃが』
『凄いよねー。こんな緻密に考えるのは僕にはできないや』
頭の中の同居人、クローゲンも感心してマイの図を眺めている。
特にケチをつけていないので、クローゲンからみても大きな問題は見当たらなかったのだろう。
「……見事な用兵です。なれど相手や状況次第ではうまく行かないこともありえるでしょう。故に、この戦術に付け加えるならば虚をつく方策も用意するのが良いのでないでしょうか」
『儂の戦い方を踏襲すればそうなるわな』
「む。それはそうなのだが、うちの隊はそうした動きは得意ではない。個人の才能による強引な手段よりも、凡人であろうが鍛えれば可能な戦い方を徹底してあるからな。それに実際に指揮するのは全軍の中の一部に過ぎないから、状況次第だろう」
「あくまで一部隊ですし、騎兵がいなければ機動力は生かしにくいでしょうから、それもわかります。であれば、後退を戦術に組み込むのはいかがでしょうか」
「なるほど。なるほどなー、他との連動か」
戦術論を楽し気に語るマイとカナに、後ろからイブが声をかける。
「カナちゃんはどこの部隊に行くか決まってるのかにゃ? マイちゃんと仲良しみたいだし、入っちゃう?」
「部隊分けを決めるのは婆さんたちだがな」
「まだ聞いてないですね。マイとご一緒できれば嬉しいのですが。イブはやはりマイの部隊なのですか?」
「いんにゃ、あたしゃー後方部隊しゃー。錬金術師を前線に出さないでほしいねぃ。しゃーってしちゃうよ、しゃーって。状況によるけど、ロロちゃんと一緒なんじゃないかぬー」
聞いたあとにカナは、イブと最初に会った時にはマイの部隊の訓練に参加していなかったことを思い出す。
仲が良さそうだからといって同じ部隊とは限らないのは当然ではあった。
「カナ姉様、どうしましょう。うざそうです」
「あはは、仲良くね。良い傾向だよ」
ロロの本当にうざそうな、それでいて不安そうな、ほんの少し楽しそうな、そんな目をみてカナがにこりと笑った。
そんな保護者ぶったスマイルをみて、ロロが機嫌の悪い目付きに変わる。
表情はいつものように動かさず、目と声で不満を伝えてくるのだ。
「むー。……努力はしてみます」
珍しいことに後ろに続くロロの言葉は、前向きなものだった。
そうした、どこかほのぼのした日常を過ごしながら、行軍を続けたオーリエール傭兵団は戦場の地リボーヌ城へとやってきた。
カナにとって、はじめての戦場。
はじめての戦争が、はじまるのだ。
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